越前箪笥とは
越前箪笥(えちぜんたんす)とは、主に福井県越前市や鯖江市周辺で作られている木工品です。
材料にはケヤキやキリなどの木材を使用しています。硬くて耐久性に優れたケヤキと防湿性があり狂いの少ないキリは、高級タンスの材料として特に重宝されている木材です。
越前箪笥の特徴は、釘を使わずに木材同士を組み合わせる指物技法(さしものぎほう)を使っていること、華やかな金具や漆塗りがあしらわれていることです。
飾りとなる金具には「越前打刃物(えちぜんうちはもの)」、漆塗りには「越前漆器(えちぜんしっき)」の技術が使われています。どちらも国の伝統的工芸品に指定されているものです。
このように越前にある技術を集結させてできあがる越前箪笥。2013年には越前箪笥も国の伝統的工芸品に指定されました。
重厚感あふれる越前箪笥は使えば使うほど味の出てくるタンスです。金具にもいろいろな種類があり、実用性がありながらも目で見て楽しむ芸術品としての価値も高くなっています。
越前市の観光地にもなった「タンス町通り」
越前箪笥が誕生したのは江戸時代の終わりごろ。富裕層である旦那衆(だんなしゅう)の家に出入りしていた家具職人・指物師(さしものし)によって製造が始まります。
現在の福井県から山形県の一部は昔「越国(こしのくに)」と呼ばれており、越前市には政治の中心・国府も置かれていました。越前箪笥を始めとした数々の伝統工芸品が誕生した背景には、そういった文化や技術が栄えやすい環境があったことも要因として考えられます。
室町・戦国時代ごろ、指物師が越前を拠点とした朝倉家の茶道具を作り始めます。ここで芽生え始めたのが指物文化です。
江戸時代には、現在の福井県嶺北(れいほく)中心部を治めていた福井藩の藩主・本田富正が町を整備し、さまざまな方面の技術者を集めました。
明治時代の中ごろになると、技術を持ったタンス作りの職人たちが越前に集まり、タンス町ができあがります。昭和時代には15〜16店のタンス屋が並び、「タンス町通り」と呼ばれるようになりました。
当時、タンス町が一番賑わったのは秋の収穫後といわれています。嫁ぐ前の娘を連れた親たちが、嫁入り道具の品定めをしにタンス町へやってきたからです。
現在でもこの地域には建具商や家具屋が建ち並び、越前市の観光地としても有名です。
このタンス町通りを中心に越前市で製造されている越前箪笥は、2013年に経済産業大臣指定の伝統的工芸品に認められました。
いろんな伝統工芸品の技術を集めた越前箪笥
越前箪笥の特徴は、ユニークな飾り金具と漆塗りによる荘厳な雰囲気です。
「越前打刃物」の技術を使って作られる越前箪笥の金具には、「猪目(いのめ)」「雲」「入り如意・出如意」「鍵」などの種類があります。
特に有名なのが「猪目」。イノシシの目を模して作られたとされていますが、ハート型のような見た目をしています。魔除けの意味合いも込めて、寺社仏閣の門や屋根などに使われることもありました。
越前箪笥には、衣服をしまうためのものだけでなく、帳簿や墨・硯などの文房具を入れる「掛硯(かけすずり)」、主に帳簿を入れる「帳箪笥(ちょうだんす)」などもあります。これらのようなタンスには、中身を守るための「鍵」の金具がつけられました。
金具の素材に使われるのは昔も今も変わらず鉄。切断の作業は機械でおこなわれることも増えてきたようですが、やすりで整える作業は職人の手作業です。
独特な風合いをもたらす漆塗りの技術は「越前漆器」からきています。漆の塗り方は、透明の生漆(きうるし)を塗って素朴に仕上げる「拭き漆(ふきうるし)」、木目を美しく活かす「春慶塗(しゅんけいぬり)」、黒い光沢が特徴的な「呂色塗り(ろいろぬり)」の3種類です。
塗装する前に「木地調整」という、下地を整えて塗りムラを防ぐ作業をおこないます。このあとに漆塗りをし、越前箪笥ならではの重厚感を出していきます。
このようにしてできあがる越前箪笥は、味わい深さのある独特な雰囲気を醸し出しています。
越前箪笥の現代での使われ方とお手入れ方法
以前は嫁入り道具としての需要が高かった越前箪笥。今ではその風習も薄れてしまいましたが、越前市の伝統工芸品として時代の変化に則した越前箪笥の製造が続けられています。
伝統的な越前箪笥を後世まで受け継いでいくためにも、直射日光が当たらないようにし、乾拭きなどのお手入れは怠らないようにしましょう。
カビの発生を防ぐために壁から5センチほど離しておくこともおすすめです。
もし蝶番がゆるんできたり汚れが目立ってきたりした場合は、越前箪笥の修理・修繕を専門におこなっている工房に相談してください。
越前箪笥の見学・体験ができる場所
てづくり工房まつ井
所在地 | 福井県越前市大手町5-32-1 仁愛大学前 |
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電話番号 | 0778-22-0667 |
定休日 | 水曜日 |
営業時間 | 10:00~19:00 |
HP | http://www.kirikobo.jp/ |
備考 | 完全受注生産で桐タンスを作っている工房です。予約することで工房の見学をすることができます。 |
越前箪笥「匠」工房 小柳箪笥(おやなぎたんす)
所在地 | 福井県越前市武生柳町10-7 |
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電話番号 | 0778-22-1854 |
定休日 | 不定休 |
営業時間 | 9:00~19:00 |
HP | https://oyanagi-tansu.jp/ |
備考 | 完全受注生産で越前箪笥を作っています。工房の見学も可能です。 |