江戸からかみとは
江戸からかみ(えどからかみ)とは、和紙にさまざまな装飾を施した工芸品です。その伝統的な製法を長年守り続けてきたことにより、1999年に経済産業大臣から、国の伝統的工芸品の指定を受けています。
戦火を生き延びた江戸からかみの歴史
江戸からかみの起源は、平安時代に中国から伝わった「紋唐紙(もんからかみ)」と呼ばれる模様のある紙です。この紋唐紙を元に、装飾の施された紙が国内でも生産されるようになりました。
当時、江戸からかみの装飾技法には2つの系統がありました。 1.仏教の経典を装飾するための技法 2.和歌をしたためた詠草料紙(えいそうりょうし)を装飾するための技法
江戸時代には、江戸城や大名屋敷、町人の住居や店舗のふすまに使われることで江戸からかみの需要は急増し、その需要増に応えるため、多くの職人が江戸に移り住みました。
1689年頃には、江戸からかみを作る「唐紙師(からかみし)」は浅草から新橋までの間に13件の名匠がいたという記録が残されています。
また、江戸からかみはヨーロッパの美術館や博物館にも保存されており、「オルコック・コレクション」、「シーボルト・コレクション」、「パークス・コレクション」などが資料として残っています。
多くの需要を受けて発展していった江戸からかみですが、その道筋は決して順風満帆なばかりではありませんでした。
まず、1923年に発生した関東大震災によって、多くの版木が焼失してしまいます。震災後、江戸からかみを復興しようとした職人の手によって、何百もの版木が作られました。
しかし1945年、今度は東京下町が大空襲を受け、多くの版木は再び焼尽してしまいました。ただ、その中でも、井戸や土の中に埋めて隠された数百枚の型紙は戦災を逃れています。
そうして戦後に残った型紙や、生き残った職人の手によって三度作られた版木によって、江戸からかみは幾度となく存続の危機に瀕しながらも、現代に伝わっているのです。
洗練されたデザイン性を持つ江戸からかみの特徴
江戸からかみの特徴は、洗練されたデザイン性を持つ文様にあります。草花や波をモチーフとした伝統的な文様は、江戸の町民文化を意識したおおらかでダイナミックな印象を与えるのです。
そんな江戸からかみですが、現代においてその加飾の技法は「唐紙師(からかみし)」「更紗師(さらさし)」「砂子師(すなごし)」という3種類の職人に分かれています。ここでは、それぞれの職人ごとに技法をご紹介していきます。
唐紙師の技法
唐紙師は、和紙に版木の文様を写し取る「木版雲母摺り(もくはんきらずり)」という技法で加飾をしていきます。「雲母(きら)」というのは、白雲母の粉末や貝殻から作った「胡粉(こふん)」と呼ばれる白い粉末を布海苔などと混ぜて作った絵の具です。
この絵の具を文様が彫られた版木に塗りつけ、和紙でその文様を写し取るのです。次に、雲母を塗っていく「引き染め」という工程が入ります。
引き染めの工程には、3つの作業があります。 1.ハケで雲母を塗る「色具引き」 2.櫛状にしたハケを使って縞模様を描く「丁子引き(ちょうじひき)」 3.水を含ませたハケで色をぼかしながら雲母を塗る「ぼかし染め」
引き染めが終わったら、次に「雲母引き手揉み(きらびきてもみ)」の作業を行います。これは顔料や金銀泥を2層に塗り、紙を手揉みしてシワや亀裂を作っていく作業です。最後に、和紙に金銀箔を押す「箔押し」をすれば、江戸からかみが完成します。
更紗師の技法
更紗師は、木版ではなく伊勢型紙と呼ばれる型紙を使った「捺染摺り(なっせんずり)」という技法で加飾をしていきます。捺染摺りには「単色摺り」と「多色摺り」の2種類があります。和紙の上に型紙を乗せ、文様を摺り込むのが単色摺りです。一方、5枚から7枚の型紙を使用し、摺色を変えながら文様を摺り込むのが多色摺りです。
これらの方法で文様を摺り込んだ和紙に、文様が彫り込まれた和紙で箔押しをすれば、江戸からかみは完成します。
砂子師の技法
砂子師は、金銀箔を平押ししたり和紙に蒔いたりすることで加飾をしていきます。砂子師の技法は、以下の5つに分かれています。 1.金銀箔を粉状にした「砂子(すなご)」を竹筒の中に入れ、和紙の上に蒔いていく「砂子蒔き」 2.大きさの異なる金銀箔を糸を張った竹筒などに入れて散らす「箔散らし」 3.砂子を更に細かくし、泥状にした金銀泥を塗り、獣の骨や皮で作った天然の接着剤である膠(にかわ)を加えてハケで塗っていく「金銀泥引き」 4.山水画や日本画などの伝統的なモチーフを、和紙に筆で絵を描いていく「描き絵」 5.砂子蒔きや金銀泥引きをした和紙の下に版木を置き、上から擦ることで模様を浮かび上がらせる「磨き出し」
このように、江戸からかみと一言でいってもさまざまな技法が用いられ、そのバリエーションは豊かなものとなっています。
これら3種類の職人が競って技術を高めあっていくことで、江戸からかみの技術はより洗練され、今日まで受け継がれているのです。
江戸からかみの現代での使われ方とお手入れ方法
江戸からかみは、これまでふすまや屏風の装飾に使われることが主流でした。特に、ふすまに江戸からかみを用いた住宅は人気が高く、ホテルなどでも利用されています。現代ではその装飾性を生かして、壁紙やタペストリーへも用途が広がっています。
また、より多くの方に江戸からかみの魅力を知ってもらうため、江戸からかみを使った封筒や文房具なども生産されるようになりました。
そんな江戸からかみですが、和紙でできているため、その取り扱いには気をつける必要があります。まず、江戸からかみを使ったふすまや屏風は水や洗剤には弱いので、水での洗浄は避けてください。ホコリが付いてしまった場合、ハタキなどを使って優しくホコリを払います。
柔らかいブラシを使ってお手入れをすることもできますが、あまり強くこすると表面が毛羽立ったり破けたりしてしまうので、優しく行うのがポイント。汚れやシミがひどい場合は、専門の業者に修理を依頼するのが一番確実な方法となります。
江戸からかみの見学・体験ができる場所
全国伝統的工芸品センター「伝統工芸 青山スクエア」
所在地 | 東京都港区赤坂8-1-22 |
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電話番号 | 03-5785-1001 |
定休日 | 無休 |
営業時間 | 11:00~18:00 |
HP | https://kougeihin.jp/ |
備考 |
東京ミッドタウン THE COVER NIPPON
所在地 | 東京都港区赤坂9-7-3東京ミッドタウン ガレリアE-0305 |
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電話番号 | 03-5413-0658 |
定休日 | 祝日 |
営業時間 | 11:00~19:00 |
HP | https://thecovernippon.jp/ |
備考 |