越中福岡の菅笠とは
越中福岡の菅笠(すげがさ)は、富山県を代表する伝統工芸品です。高岡市福岡町を中心に、砺波(となみ)市、小矢部(おやべ)市、南砺(なんと)市などで生産される高品質の菅笠は、日本各地に納品され、高い評価を得ています。
日よけや雨具として重宝される越中福岡の菅笠は、農作業や外出時の便利な道具として大人気。2017年には、国の伝統的工芸品に指定されました。
河川の氾濫から始まる越中福岡の菅笠の歴史
越中福岡の菅笠の起源は、400年以上前に起きた小矢部川の氾濫とされています。沿岸一帯が泥沼と化し、大変な被害をもたらしましたが、泥まみれになった当時の福岡町では、質の良い菅が多く自生するようになりました。
その菅を使った蓑(みの)は品質が良く、とても軽かったことで、多くの注目を集めます。菅を用いた製品は村の副業となり、次第に菅笠も作られるようになったのです。
菅笠の生産がより活発になったのは、江戸時代中期。1670年頃、加賀藩主である前田綱紀(つなのり)から保護と奨励を受け、本格的に産業化しました。質の良い製品を作る独立した笠問屋も、どんどん増えていったのです。
幕末になると、菅笠産業は最盛期に突入。1864年頃には、年間210万枚も出荷された記録が残っており、大量の菅笠が作られていたことがわかります。「加賀笠」という名前で広く知れ渡っていた福岡町の製品は、本州日本海側の菅笠製作にも、多大な影響を与えました。
菅笠の生産は、その後もさらに活発化。農業だけでなく、踊りや民芸品としての需要も高まったことで、より幅広い製品が生み出されていきます。1955年頃までは、年間100万枚以上のペースで出荷され続け、多くの人が菅笠を愛用していました。
現在は需要が減少していますが、福岡町の菅笠の生産量は、全国でもトップクラスを維持。日本の菅笠のほとんどは、富山県で作られているのです。大切に守られてきた生産技術は、長い年月をかけてさらに研ぎ澄まされ、高品質な製品が数多く生み出されています。
2009年には、「越中福岡の菅笠製作技術」が、国の重要無形民俗文化財に指定されました。2016には、「越中福岡の菅笠製作技術」「菅笠問屋の町並み」の2つが、日本遺産である高岡の構成文化財に追加されています。
伝統的な技法で菅の特性をいかす越中福岡の菅笠
越中福岡の菅笠にはさまざまな種類がありますが、すべてに共通する要素は、きれいな丸い形です。直径は3センチ単位での変更が可能であり、要望に合わせて最適な大きさの笠を作ることができます。使用目的などを考慮し、丁寧にサイズを調整した菅笠は、長い歴史の中で多くの人から愛されてきました。
厳しい冬を乗り越える福岡地域の菅は、全国でもトップクラスの品質を誇り、防水性や撥水性に優れています。そのため、菅を用いた角笠や富士笠は、雨や雪、泥水などを防ぐ効果も抜群。風や日光による影響も、上質な菅がしっかり軽減してくれます。
菅笠は非常に軽く、使用時に重量のストレスを感じないことも魅力のひとつ。長く頭に乗せていても疲れにくいため、長時間の作業でも邪魔になりません。通気性が高く、涼しさを感じさせてくれるので、蒸し暑い夏にも最適。快適な使用感で、働く人々の生活を支え続けています。
また、菅の栽培、笠骨作り、笠縫い、出荷までの一連の工程が、分業方式で効率よく行われていることも特徴。男性が笠骨作りを、女性が笠縫いを手掛けることが、福岡の菅笠造りの伝統です。それぞれが得意とする作業を振り分けることにより、スムーズにひとつの製品を仕上げていきます。
越中福岡の菅笠の現在とお手入れのコツ
屋外で仕事をする際、体の負担を和らげてくれる菅笠は、全国各地の農作業で大活躍。伝統行事や祭りなどでも重宝され、幅広く使われています。
人気の中心は、角笠や富士笠、大野笠といった定番のものですが、新しい菅笠も次々に登場。乙女笠や細骨のマカロン、六角形の六方(ろっぽう)などは、伝統にとらわれないユニークな製品です。
最近は、特殊な技術で染めた菅を使い、カラフルな模様を付けた笠も人気。さまざまな色合いを楽しめる新しい菅笠には、従来の製品とは異なる可愛らしさがあり、若い世代や女性からの支持を獲得しました。
ほかにも、菅を使ったコースターやブローチ、イヤリングなど、新しい技術を取り入れた珍しい製品が多数。高齢化が進み、菅笠の生産者も減少していますが、若い作り手は熱心に研究を行い、新しい挑戦を続けています。伝統的な技法を継承してきた越中福岡の菅笠は、柔軟な発想で時代の変化にも対応し、現代の人々の生活にしっかり溶け込んでいるのです。
越中福岡の菅笠を長く使うには、日頃から手入れをしておく必要がありますが、それほど手間はかかりません。汚れが付着した場合には、あまり強くこすらず、軽く拭き取りましょう。さっと拭くだけの簡単な手入れでも、こまめに行っていれば、5~10年は使うことができます。
保管する際は、湿度が低く、風通しの良い場所を選ぶことが大切。じめじめしない場所であれば、ただ掛けておくだけでも、劣化を早める心配はありません。
越中福岡の菅笠の見学・体験ができる場所
さんちょんぴん蔵
所在地 | 富山県高岡市高岡町福岡1077-5 |
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電話番号 | 0766-75-7874 |
定休日 | 火曜日・木曜日 |
営業時間 | 9:00~16:00 |
HP | https://sugegasa.jp/kura/ |
備考 | 菅笠作り見学 |
株式会社高岡民芸
所在地 | 富山県高岡市麻生谷403 |
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電話番号 | 0766-31-1311 |
定休日 | 日曜日 |
営業時間 | 9:00~18:00 |
HP | https://takaokamingei.co.jp/ |
備考 | 菅笠製作体験 |