飛騨春慶とは
飛騨春慶(ひだしゅんけい)は岐阜県高山市および飛騨市周辺で作られる漆器です。盆や花器、重箱、茶道具などがおもに作られています。
江戸時代には茶器としての利用がおもでしたが、次第に日用品も作られるようになりました。
長年使うことで生まれる風合いの変化も、魅力のひとつです。1975年、経済産業省の伝統的工芸品に指定されました。
藩への献上品から始まった飛騨春慶
飛騨春慶の誕生は、江戸時代の初めごろ。高山城下の大工、高橋喜左衛門(たかはしきざえもん)が、たまたまうち割ったサワラの美しい木目に強くひかれ、これで盆を作ります。
この盆を当時の高山城主金森可重(かねもりありしげ)の子、重近(しげちか)に献上すると、重近はこれを気に入って塗師(ぬし)である成田三右衛門(なりたさんえもん)に透き漆で塗り上げさせます。
その盆の様子が瀬戸焼の開祖、加藤景正(かとうかげまさ)の名陶「飛春慶の茶入(ひしゅんけいのちゃいれ)」に似ていたことから「春慶塗(しゅんけいぬり)」と名付けられたことがはじまりと伝わっています。
当初はおもに茶器として利用されていましたが、次第に盆や重箱なども作られ、庶民も手に取るようになります。飛騨春慶は明治・大正・昭和と時代を経ても人々に愛され続けます。
そして1975年、通商産業省の伝統的工芸品の指定を受け現在に至っています。
美しい木目と職人の個性が光る飛騨春慶
飛騨春慶の漆器に使われる木材はおもに、ヒノキ、サワラ、トチなどです。これらの原木は5年から6年をかけて自然乾燥をさせます。
その後は木地の形状によって専門の木地師が木地を製作します。枇目師(へぎめし)は板目を組み合わせニカワで接着する技法で、重箱や盆などを作ります。
曲物師(まげものし)はまず、蒸し煮をして柔らかくした板を「コロ」という木製のローラーで形成します。それから両端をニカワやヤマザクラの皮で止め仕上げる技法で弁当箱や茶筒などに仕上げます。
挽物師(ひきものし)はろくろに木材を取り付け回転させながら刃物で削っていく技法で、丸盆や菓子器、茶托を作っています。
木地が仕上がると塗師の手にわたります。まず、「下塗り(したぬり)」では「豆汁(こじる)」という大豆の絞り汁で、漆が急に木地に染みこまないよう膜をつくります。
「摺り(すり)」では、漆とえごま油を混ぜたものを木地にすり込んだ後、布で拭き取ることを何度も繰り返します。すると漆が固く透き通って木目のうかぶ様子が変化するのです。
「上塗り(うわぬり)」では、上塗り用の透明な漆を塗り、仕上げます。この漆は塗師それぞれ独自に生成したもので、作り方は秘伝となっています。漆はその日の湿度や気温によって使い分けます。塗りの工程だけでも3カ月から4カ月ほどかかりますが、何度も漆を塗り重ねるので丈夫で艶やかに仕上がるのです。
最後に、「ふろ」とよばれる大きな乾燥機で乾燥させて完成です。
飛騨春慶は、木の風合いを生かして仕上げられています。そのため時を経るごとに木目がより浮き出して独自の味わいが楽しめます。ほかの漆器に比べると工程が少なく軽いので、より実用性が高いことも魅力です。
飛騨春慶は、木地師と塗師が分業しそれぞれの熟練した職人技によって完成される伝統工芸品なのです。
飛騨春慶の現代での使われかたとお手入れ方法
飛騨春慶は誕生後しばらくすると、生活用品として親しまれるようになりました。年月が経過した現在でも引き続き日用品として使われ、愛され続けています。
食卓を彩る器としてはもちろん、木目を生かして家具やアクセサリーなども作られて、人気を集めています。
お手入れ方法は、軽い汚れはぬるま湯で手早く洗ってください。油汚れは薄めた洗剤で優しく洗ってください。水滴の跡が残らないようにしましょう。水切り後は乾ききらないうちに、柔らかい布で拭いてください。
強い衝撃を与えないようにしましょう。使用後は直射日光の当たらないところに保管してください。
飛騨春慶の見学・体験ができる場所
飛騨高山まちの博物館
所在地 | 岐阜県高山市上一之町75番地 |
---|---|
電話番号 | 0577-32-1205 |
定休日 | 無休(臨時休館あり) |
営業時間 | 展示室 午前9時から午後7時まで研修室・永田酒蔵ホール 午前9時から午後9時まで(イベント等に合わせ調整)庭、広場等 午前7時から午後7時まで(季節により閉門時間を調整) |
HP | https://www.city.takayama.lg.jp/machihaku/index.html |
備考 | 展示室は江戸時代の豪商、矢嶋家と永田家の土蔵を活用しています。 |
藤井美術民芸館
所在地 | 岐阜県高山市上三之町69 |
---|---|
電話番号 | 0577-35-3778 |
定休日 | 休業:12月31日~1月1日 冬期:不定休 |
営業時間 | 午前9時から午後5時 |
HP | http://kankou.city.takayama.lg.jp/2000002/2000026/2000214.html |
備考 | 高山在住の医師、藤井氏の古美術品と古民芸品のコレクション約2,500点を、江戸萬流総檜造りの土蔵に展示。 |