井波彫刻とは
井波彫刻とは、富山県南砺市にある井波地区を中心に受け継がれている伝統工芸です。楠、ケヤキ、桐などの天然木を、多種多様なノミを使い制作される井波彫刻。熟練した職人の手仕事によって生み出される繊細でありながら力強い作品の数々は、多くの寺院仏閣を美しく飾ってきました。また、一般住宅の欄間(らんま)や置物など、幅広いシーンで多くの人々を魅了し続けています。
1975年には、井波彫刻の高度な技術と伝承が認められ、経済産業大臣によって「伝統的工芸品」に指定されています。近年では、井波彫刻ギターが話題になるなど、伝統の技を用いた新しい彫刻作品も注目されています。
瑞泉寺の再建から生まれた井波彫刻の歴史
江戸時代中期の1763年、井波のシンボルである瑞泉寺が火災で焼失しました。その再建にあたって、井波に京都本願寺より御用彫刻師である前川三四郎が派遣されました。三四郎は地元の大工であった番匠屋九代七左衛門ら4人に高い彫刻技法を伝授。これが井波彫刻の始まりとされています。
その後、1792年に瑞泉寺勅使門(ちょくしもん)菊の門が再建されました。その門扉の両脇に残る「獅子の子落とし」は七左衛門の代表作。狩野派の画風で浮き彫り技法が凝らされ、日本彫刻史上の傑作といわれています。
井波彫刻は江戸時代を通じて、寺社仏閣を彩る技法として育まれてきました。明治になると、寺院欄間の技法を活かした住宅欄間の形態も整えられ、盛んに研鑽が積み重ねられます。
大正になり、1914年にはサンフランシスコ万博に出品した初代大島五雲の書院欄間が名誉金賞を受賞。この頃より、井波の彫刻師は門弟を多く養成し、従事者数が急速に増えました。
昭和になってからも、寺社への彫刻が行われ、東京築地本願寺や日光東照宮など、多くの寺社や仏閣を手掛けました。また、並行して一般住宅の欄間や獅子舞、厄払いとして使用される獅子頭、置物の製作も活発に行われました。
戦争中は、軍事優先の中で芸術的要素の強い井波彫刻は厳しい状況に立たされることに。しかし、井波彫刻の伝統技術は絶えずに継承され、1975年には国の「伝統的工芸品」に指定されました。
現在では、住宅欄間や寺社仏閣の彫刻、置物など、幅広い分野で製作が行われています。また、大臣表彰や褒賞、勲章を受ける名工、日展をはじめとする各所の美術展で入賞者を輩出しています。
多種多様なノミを駆使して生み出す井波彫刻の特徴
井波彫刻が手掛けるのは寺院欄間や住宅欄間だけではありません。卓抜したその技法は、獅子頭、衝立、仏像など、幅広い分野でいかんなく発揮されています。
大きな特徴は、力強くも緻密で繊細な技法が随所に凝らされる点です。作品の性質によって、時に大胆に、優美にと、多彩な表現を駆使することで井波彫刻の美は生み出されています。
この井波彫刻の作風を支えているのは、大小さまざまな形をしたノミです。ノミは一人の職人で200本程持っており、100~120本を素材や工程によって使い分けます。その種類は、荒彫り用から仕上げ用までを合わせると30種類はゆうに超え、職人が自分に合わせて制作しています。
このように素材や作風などに合わせ、多彩に道具を使い分ける点も、井波彫刻の大きな特徴の一つです。
井波彫刻の利用シーン・使用上の注意点
井波彫刻の作品は、伝統的なものから現代の生活スタイルに合った小物まで、大変幅広く作られています。伝統的な作品としては、和室の格式を上げる欄間、表情豊かな仏像、勇ましい獅子頭など。現代的な作品としては、ユニークな表札や看板、動物モチーフのキーホルダーやスマホスタンドなどが挙げられます。
また、スプーンや皿といったカトラリーや食器などもあります。これらは、木の特徴を生かした温もりを感じる風合いを持っています。そのため、和食だけではなく洋食や中華など、さまざまな料理に活用することができます。
また、丈夫で扱いやすいので、特別な日はもちろん、日常生活で気軽に使えることも井波彫刻で作る食器の魅力です。
ただし、丈夫で扱いやすいとはいえ、天然素材を使用しているため、使い方や保管方法には注意が必要です。
まず、食器を使った後はできるだけ早めに洗ってください。長い時間、使ったままの状態で置いていると、油や料理の色が移ることがあるので注意しましょう。洗う際には、金タワシや食器洗浄機は使わず、傷付かないようにするために、柔らかいスポンジなどで洗ってください。
白木(無塗装)の食器は、よく絞った布巾などで汚れをふき取り、その後に乾拭きしてから保管してください。急激な乾燥による割れや反りを防ぐため、使用後は水気をよく拭きとり、冷暗所で保管してください。
井波彫刻の見学・体験ができる場所
井波彫刻総合会館
所在地 | 富山県南砺市(井波)北川733 |
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電話番号 | 0763-82-5158 |
定休日 | 毎月第2・第4水曜日 (休館日が祝祭日の場合は翌日が休館日)年末年始(事前にご確認ください) |
営業時間 | 9:00 ~ 17:00(入館は16:30まで) |
HP | http://www.inamichoukoku.com/kaikan/ |
備考 | 展示、販売、彫刻実演 |
いなみ木彫りの里 創遊館
所在地 | 富山県南砺市北川730 |
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電話番号 | 0763-82-5757 |
定休日 | 毎月第2・第4 水曜日・レストランは毎週水曜・くりえ〜と工房(体験)は毎週日曜日のみ営業(要予約) |
営業時間 | ・特産品コーナー 9:00〜17:00・くりえ〜と工房(体験) 10:00〜17:00・レストラン 10:00〜18:00(ラストオーダー17:30) |
HP | http://www.kibori.co.jp/ |
備考 | 販売、見学、体験(プレート、小物入れなどの製作) |