岩谷堂箪笥とは
岩谷堂箪笥(いわやどうたんす)は、岩手県奥州市江刺を中心に製造している木工家具です。平安時代に生まれた産業がもとになっている岩谷堂箪笥は、どっしりと重厚な天然木と、堅牢で優美な金具により構成されており、その調和が気品を生み出しています。
見た目の美しさだけでなく、丈夫で長持ち。さらに金庫の役割のために鍵がかけられるようになっていたり、車がついていて運べるようになっていたりするものもあり、日常生活に寄り添う工夫がされた家具です。1982年に経済産業大臣より国の伝統的工芸品に指定されました。
平安時代に生まれ江戸時代に花ひらいた岩谷堂箪笥の歴史
美しい木目と塗りが特徴の岩谷堂箪笥の起源は、平泉が栄えていた頃、1100年代にさかのぼります。この時代は平泉文化を築いた藤原氏初代の藤原清衡(ふじわらのきよひら)が産業奨励に力を入れており、その流れで岩谷堂箪笥がつくられました。当時は現在のような引き出しがある箪笥ではなく、長持のような大型の箱だったといわれています。
その後、1780年代になると岩谷堂城主の岩城村将(いわきむらまさ)は民衆が飢饉で苦しんでいるのを見て、米の生産だけに頼る経済から脱却しようと考えました。家臣に箪笥の製作や塗装の研究をさせて、階段箪笥や車つきの箪笥が誕生。さらに1820年代には徳兵衛という鍛冶職人が彫金金具を考案して、現在の岩谷堂箪笥の原型ができあがります。
明治になると箪笥が一般家庭に広まり、それとともに岩谷堂箪笥の需要も拡大していきます。漆塗りと飾り金具の美しさが際立つ岩谷堂箪笥は評判がよく、岩手県のみならず宮城県県北に広まっていき、東北各地に出荷されていきました。こうして今に至るまでその技術が受け継がれています。
木目と鋳物のコントラストが美しい岩谷堂箪笥の特徴
岩谷堂箪笥には、おもに欅(ケヤキ)と桐(キリ)の木材を使います。重厚で美しい木目を表現するために、表層は欅の突板で形づくり、引き出しには桐を使用。桐は狂いの少ない材質なので衣類を長く守ることができるのです。外観は漆塗りで木目の美しさが際立ち、時間が経つにつれて透明感が出てきて、漆塗り独特の風合いになっていきます。
岩谷堂箪笥のもうひとつの特徴は、2種類の豪華絢爛な金具にあります。下絵を描いた鉄板や銅板に、かなづちとたがねを使って模様を打ち出す「手打ち彫り」。そして、鋳型に鉄を流しこんでつくる「南部鉄器金具」です。現在は9割が南部鉄器金具を使用していますが、ひとつずつ彫刻を施す「手打ち彫り」は熟練の職人ならではの逸品となっていて、家具の風格を引き上げます。
岩谷堂箪笥の制作工程 は、原木を切り出すところから始まります。北上山系に自生した欅から樹齢300年以上のものを切り出し、数年ねかせます。そして製材したものをさらに数年、野ざらしにして乾燥。こうすることで変形や割れを防ぐことができるのです。
つぎに1本の木をあますところなく使用するために、「木取り」と呼ばれる工程で切りとっていきます。木地の加工や組み立てをおこない、カンナで表面をなめらかにしたら、引き出しも同様にすすめます。外枠と底板を組み合わせて引き出しが完成したら、本体に合致するようにカンナで仕上げていきます。
本体の外側は、漆を塗ってツヤや重厚感を出します。布で磨きながら塗り重ねる技法「拭き漆」と砥石で砥ぎながら何度も塗る技法「木地蝋塗り」があり、どちらも繰り返し漆を塗って磨くことで美しさが増していきます。
手打ち彫りの制作 は、絵柄の描いてある型紙をもとに金属の板にたがねで線を彫っていきます。そして裏からかなづちでたたいて、絵柄を立体的に打ち出します。絵柄のモチーフは、龍や獅子、唐草などがあり、長年伝承されてきました。
手打ち彫りした板は、切りたがねや電動のこぎりでカットをして、やすりをかけて仕上げます。職人は道具のたがねや鉄の丸棒なども自作して、試行錯誤しながら精進していきます。その精緻で美しい金具は、もはや工芸品の域をこえた芸術作品といえるでしょう。
最後に箪笥本体に、金具を取り付けて完成させます。これら一連の工程をすべて職人の手づくりでおこなうことで、優美で堅牢な家具ができあがるのです。
岩谷堂箪笥の現代とお手入れ方法
岩谷堂箪笥は、美しい木目と漆塗りの重厚さ、使いやすさが魅力で、現代も嫁入り道具として人気が高い箪笥です。また岩谷堂箪笥生産協同組合は、生活スタイルが洋風化した現代のニーズに合わせて、新たに「岩谷堂くらしな」というブランドを立ち上げて新製品を生み出しています。
設置上の注意点は、できるだけ直射日光が当たらないような場所、通気性のいい場所に置くことです。漆塗りは紫外線に当てるのはよくないので、日光が当たらない場所に置くようにしましょう。また、製造直後は極まれに漆によるかぶれが起こる場合もあります。製造直後でなければ問題はありませんが、もしかぶれた場合は医師の診察を受けてください。
お手入れ方法としては、普段は乾いた布で軽くほこりを払う程度で十分です。濡れた雑巾やワックスなどで拭いてしまうとシミになる可能性がありますから、必ず乾いた布を使いましょう。数年に一度ぐらい、椿油を少量布につけて優しく拭くとツヤが戻ります。また、金具も椿油で拭くとツヤが戻りサビ防止にもなります。
岩谷堂箪笥の見学・体験ができる場所
I・T・S(岩谷堂タンス製作所)
所在地 | 岩手県奥州市江刺愛宕字梁川204-1 |
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電話番号 | 0197-35-7357 |
定休日 | 水曜日・年末年始 |
営業時間 | 10:00 〜17:00 |
HP | https://www.its-iwayado.jp/ |
備考 | ショールーム・オンラインショップ |
岩谷堂家具センター
所在地 | 岩手県奥州市江刺南大通り3-5 |
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電話番号 | 0197-35-1220 |
定休日 | 毎週水曜日 |
営業時間 | 10:00~18:00 |
HP | http://iwayado-kagu.com/ |
備考 | 販売あり |