川尻筆とは
川尻筆とは、広島県の呉市川尻町で作られている筆のことです。広島県は筆の二大生産地。広島県には筆の国内シェア1番の熊野筆もあり、川尻筆を含めると、広島県で日本の筆の8割以上を生産しています。
川尻筆は、江戸時代の末期から作られましたが、京筆の流れを汲み、昔も今も高品質であると認められています。筆の穂先がしなやかであるために、書道家や日本画家など多くの専門家から支持を受けています。
川尻の村民が農閑期に兼業として始めて大成した川尻筆の歴史
川尻筆の歴史は、江戸時代の末期にさかのぼります。
1838年、広島県の川尻に住む菊谷三蔵(きくたにさんぞう)という筆商が、現在の兵庫県である摂州有馬から筆を仕入れ、寺子屋などへ販売を始めました。商売は成功し、菊谷は村民に農業が忙しくない時期に筆づくりを兼業とすることを提案。それに応じた上野八重吉が、9年間にわたる有馬筆の修行を終えると、筆の産地であった出雲国松江から筆職人を招いて雇い、筆づくりを開始しました。
当時、出雲の筆は「練り混ぜ」の製法で高級筆を生産していた一方で、熊野筆は「ぼん混ぜ」の製法を使っていました。「ぼん混ぜ」は量産に適しており、早く作れるため、上野は「ぼん混ぜ」も取り入れるようにしました。
筆づくりは好調で、筆づくりの業者が多く進出し、技術も進歩。川尻筆は、日本中に知れ渡っていきました。学校教育で筆が必要になったこともあり、明治末期から昭和初期の頃は川尻筆の最盛期でした。
第二次世界大戦の頃は、職人の多くが兵役に課されたため、一時的に生産が減退しましたが、戦後はだんだんと回復しました。1967年に、川尻毛筆事業協同組合が設立され、経営が合理化。1971年には、学校教育の中に書写が盛り込まれ、筆の需要が増加したことで、川尻筆は好景気になりました。そして2004年、川尻筆は伝統的工芸品に指定されたのです。
高級筆を伝統技法の「練り混ぜ」で作る川尻筆の特徴
高品質の川尻筆は、「練り混ぜ」の製法を用いて製造するところが特徴です。
「練り混ぜ」とは、筆づくりの工程の中で、毛混ぜを行う際の技術の一種で、毛を水に浸してから、幾度にもわたって毛を折りたたんだり延ばしたりを行いながら、毛を混ぜ合わせる方法です。京筆の製法技術で、豊橋筆のような高級筆に用いられています。量産はできませんが、高度な技術が必要とされるために、上質な筆に仕上がります。
毛混ぜの技法には、「ぼん混ぜ」の製法もあります。こちらは、乾いたままの毛をお盆の上で混ぜ合わせる方法で、量産に適しており、熊野筆などに用いられます。「練り混ぜ」と「ぼん混ぜ」のどちらで作るかによって、生産量が大きく異なります。一人が一日に作れる筆は、「練り混ぜ」で20~50本、「ぼん混ぜ」なら50~150本です。川尻筆は高級筆が主なため、「練り混ぜ」が主流です。
川尻筆の製作工程を大きく分けると、穂首(ほくび)の製作、軸の製作、完成工程の3つに分類されます。全工程を、伝統技法で、一本一本丹念に手作業で行うところが川尻筆の特徴。
川尻筆の毛の原料には、山羊、馬、狸、イタチ、鹿、それらに準ずるものを伝統的に使用しています。筆の軸には竹か木を用いること、「毛もみ」の作業工程で用いる灰は、もみがらを使用すること、麻糸で糸締めすることなども川尻筆の伝統技法です。
一人前の職人になるには、10年もの歳月を要しますが、高級な筆になればなるほど、さらに熟練した人が作ります。最も価値のある筆は、雄の山羊の首筋の一部の毛である細光鋒(さいこうほう)を使用した筆です。毛が長くて細く、根本がしっかりして、弾力もちょうど良いため、最高級といわれます。
川尻筆の種類と使用方法やお手入れ方法
川尻筆の種類は、筆に使われる毛の種類や、筆の太さ、筆の穂の長さによって分けられます。書道以外にも絵画や水墨画に使う筆もあります。
筆の毛の原料は獣毛だけでなく、鳥やナイロンの毛、木、草が使われることもあります。筆の太さで分けると、小さい順に、細筆、小筆、中筆、大筆、特大筆があります。筆の穂の長さによって分けると、短鋒、中鋒、長鋒、短々鋒、長々鋒があります。絵筆の種類に、点付筆と面相筆があります。
筆のおろし方は、筆の種類によって異なるため、注意が必要です。大筆の場合は、指の腹を使って筆の穂先からゆっくりとほぐしていきます。穂を押し付けてしまうと筆を傷めてしまうため、気を付けましょう。筆が固い場合には、ぬるま湯や水に筆を浸し、毛を優しくもみほぐしてください。ほぐし終えたら、水分をふきとります。小筆は、穂の3分の1を大筆と同じ手順でほぐします。
筆のお手入れ方法も、筆の種類によって異なります。大筆は、容器にぬるま湯を用意し、筆をぬるま湯に浸して筆全体を軽くもみほぐします。洗剤や石鹸は使わないでください。もみ続けて墨が完全に抜けたら、筆を指で整え、直射日光の当たらない所で自然乾燥させます。穂が下を向くように吊り下げて乾燥させると良いでしょう。
小筆は、水洗いはしないようにしましょう。反故紙や湿らせたタオルなどで筆をふいておくだけで大丈夫です。墨をふきとり終えたら、筆を整えましょう。また使うときがきたら、筆の穂先を爪先で崩してから使用します。大筆、小筆共に筆のキャップは使用しないでください。キャップをつけると乾燥の妨げになり、毛が腐り、抜け毛などの原因になってしまうためです。
川尻筆の見学・体験ができる場所
川尻筆づくり資料館
所在地 | 広島県呉市川尻町板休5502-37 |
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電話番号 | 0823-87-2390(国民宿舎 野呂高原ロッジ) |
定休日 | 年中無休 |
営業時間 | 9:00~17:00 |
HP | http://www.norosan.or.jp/kanko/shiryo.html |
備考 | 川尻筆づくり資料館は、国民宿舎 野呂高原ロッジに隣接しています。川尻筆の資料や筆づくりの道具、材料を展示しています。(観覧は無料) |
株式会社 坪川毛筆刷毛製作所
所在地 | 広島県呉市川尻町森二丁目10番1号 |
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電話番号 | 0823-87-2123 |
定休日 | 土日祝、年末年始 |
営業時間 | 9:00~17:00 |
HP | http://www.tsukinoura.biz/ |
備考 | 見学には、事前の予約が必要です。 |