甲州印伝とは
甲州印伝(いんでん)は、山梨県甲府市を中心に生産されている革製の工芸品です。鞄や財布など、人々の生活を支える日用品が中心であり、多くの人から愛されています。
昔ながらの技法を大切にしながら作られる製品は、上質な鹿革を用いた柔らかい質感と、漆による美しい模様が魅力。1987年には、日本の伝統的工芸品に指定されています。
甲州印伝の歴史と革製品の発展
甲州印伝の歴史は、古墳時代まで遡ります。奈良時代の書物『日本書紀』によると、鹿革を加工する技術が日本に入ってきたのは、西暦400年代。古墳時代の製品は、紫草(むらさきそう)の根から抽出した染料や、木版によって模様を付けていました。
平安時代になると、技術がさらに進化し、新しい製品が作られるようになります。西暦900年代の鹿革製品は、小桜や菖蒲(しょうぶ)による装飾が施され、種類が豊富になっていきました。
室町時代は、革製品が武具として重宝されるようになります。柔らかさと軽さ、耐久性の高さが注目され、応仁の乱でも多くの革製品が活躍したのです。武田信玄は、武具を収納するために「信玄袋」と呼ばれる鹿革の袋を愛用していました。
名前の由来となる出来事が起きたのは、江戸時代です。1624年~1643年、渡来した外国人が、幕府にインドの革製品を献上。このとき、「印度(いんど)」が「印伝」と伝わったことが、甲州印伝の由来とする説があるのです。ほかには、「印度伝来(いんどでんらい)」という言葉の省略という説もあります。
江戸時代は、人々の日常に、革製品がより浸透した時代でもありました。武士や町民が、鹿革で作られた巾着袋などを好んで持ち歩くようになります。需要も増加し、各地でさまざまな印伝が生産されるようになりましたが、現在まで続いているのは、山梨県の甲州印伝のみです。
印伝に漆が使われるようになったのは、1700年代のこと。甲州の革工が漆を使い始めると、なめらかな革肌が人気を集め、「松皮いんでん」「地割いんでん」と呼ばれて親しまれるようになります。
明治時代に入ると、甲州印伝の知名度はさらに上昇。長く受け継がれてきた信玄袋や巾着袋が、内国勧業博覧会で勲章を得たことにより、山梨県の名産品として、広く知れ渡ることになったのです。
海外から多種多様な革製品が輸入されていた明治時代は、甲州印伝が変化を始めた時期でもあります。西洋の新しい技術を取り入れながら、より時代に合わせた製品が作られるようになりました。大正時代には、ハンドバッグ等も登場。多くの需要に応えるため、甲州印伝は現在も進化を続けています。
愛用することで磨かれる甲州印伝の美しさ
甲州印伝の大きな特徴は、鹿革ならではの上品な質感です。柔らかく軽い革には、美しい光沢があり、長く使うことで輝きが増していきます。色もより冴えわたり、深みが出てくるため、長期間愛用する人が多いのです。
模様の漆は接着力や防水性が高いため、甲州印伝は丈夫な革製品として知られています。長く使っていても、簡単には劣化しません。漆の優れた耐久性が、経年による美麗な色艶や光沢を、より魅力的なものにしてくれます。
甲州印伝の模様にはさまざまな種類がありますが、基本的なテーマは、四季の美しさ。小桜、菖蒲、トンボといった昔ながらの模様が、現在も多くの製品に描かれています。ほかには、ペイズリーやアメリカンブルーなど、異国の要素を取り入れた製品も人気。通常の甲州印伝とは一味違った魅力で、新しいファンを獲得しています。
高品質な甲州印伝を作り出すのは、伝統的な3つの技法です。漆付け、燻べ(ふすべ)、更紗(さらさ)を用いて、熟練の職人が丁寧に仕上げています。
漆付けは、甲州印伝の最も代表的な技法です。染めた鹿革に型紙を置き、漆を刷り込むようにして、美しい模様を浮かび上がらせていきます。
燻べは、タイコと呼ばれる筒に貼り付けた鹿革を、藁(わら)の煙や松脂などでいぶし、自然な色を付けていく手法。いぶすことで防虫効果が高まるため、より長持ちさせることができます。
更紗は、型紙を変えながら色を重ねることで、調和のとれた鮮やかな色彩を表現。均等に色を付けていく作業では、職人の優れた技術が必要になります。
甲州印伝の現在とお手入れのコツ
現在の甲州印伝は、昔よりもさらにバリエーションが増え、より幅広い用途で使われるようになりました。財布やポーチのほかにも、スマートフォンケースやパスケースなど、現代の生活に合わせた製品が登場しています。
有名ブランドのオリジナルデザインの開発や、人気キャラクターとのコラボレーションなど、新しい挑戦によって生み出された製品も多数。伝統を守りつつも、時代に適した革製品を作り続け、海外でも高い評価を獲得しています。
甲州印伝の美しい見た目を長く維持するには、常に優しく扱うことが大切です。強く折り曲げたり引っ掛けたりすると、漆が剥がれてしまうので、注意しましょう。濡れた場合には、強くこすらず、軽く叩くように優しく拭いてください。
また、クリーナーやワックスは劣化の原因になるので、使わないようにしましょう。ひどく汚れた場合は、無理せずお店に相談することをおすすめします。
甲州印伝の見学・体験ができる場所
印傳博物館
所在地 | 山梨県甲府市中央3-11-15印傳屋本店2F |
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電話番号 | 055-220-1621 |
定休日 | 印傳屋本店休業日、展示替え期間中(ご来館の際は、あらかじめお問い合わせください。) |
営業時間 | 10:00~17:00 |
HP | https://www.inden-museum.jp/ |
備考 | 印傳作品、鹿革工芸品、漆工芸品など約1500点を収蔵。 |
有限会社印傳の山本
所在地 | 山梨県甲府市朝気3-8-4 伊藤ビル1F |
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電話番号 | 055-233-1942 |
定休日 | 日曜・祝祭日 |
営業時間 | 平日9:00~18:30、土10:00~18:00 |
HP | https://www.yamamoto-inden.com/ |
備考 | 工房の見学あり。お問い合わせください。 |