久留米絣とは
久留米絣(くるめがすり)は、福岡県の筑後(ちくご)地方で作られている伝統的な織物です。久留米市を中心に生産されており、着物以外にもさまざまな製品があります。
優れた職人の技術で作られる久留米絣は、手仕事ならではの味わいが魅力。伊予絣(いよがすり)、備後絣(びんごがすり)と並び、日本三大絣のひとつに数えられています。
久留米絣の歴史と少女が見つけ出した技法
久留米絣の始まりは、江戸時代まで遡ります。1800年代、久留米藩に住む井上伝(でん)という少女が、新しい織物を生み出しました。当時の井上伝は、わずか13歳。幼い頃から織物に親しんでいたため、10代にして優れた技術をもっていたのです。
新たな織物が誕生するきっかけとなったのは、藍染めの着物を洗濯した際の色落ち。何度も洗った着物の色が抜け、斑点ができてしまうことに興味を抱いた井上伝は、糸を解きほぐして研究を始めます。その結果、白くしたい部分を縛って染めることで、同じようなまだら模様ができることを発見。井上伝は、この技法を「加寿利(かすり)」と名付けて売り出しました。
斑点柄を美しく表現できる加寿利は、多くの注目を集め、評判の織物となります。人気が高まるにつれて、徐々に生産量が増加し、弟子も増えていきました。その後、新しい技術を学んだ弟子たちが各地へ散ったことで、加寿利は全国に広まっていきます。
1839年頃になると、同じく久留米に住む大塚太蔵(たいぞう)が、絵模様を入れる技術を開発。自由自在に絵柄を生み出す「絵絣(えがすり)」という技法が、柄の幅を広げていきます。1846年頃には、現在の八女(やめ)市にあたる国武村で、牛島能之(のし)が「小絣」を生み出しました。小さい斑紋が特徴的な小絣は、後に代表的な柄となっていきます。
幕末になると、久留米絣の需要はさらに増加。倹約令(けんやくれい)によって絹織物の使用が禁止され、綿織物の人気が高まったことで、久留米絣を身につける人も増えたのです。美しい模様が入った久留米絣は、手軽におしゃれな着こなしを楽しめる織物として、庶民の間に浸透していきます。
明治時代になり、地方産業振興が奨励されると、技術の発展はさらに加速。貫絣、十字絣、棒絣など、多種多様な絣柄が登場し、より幅広く使われるようになっていきます。
1877年に西南戦争が始まると、本来の生産工程が保てなくなり、品質が低下。粗悪な織物で一時は信頼を失うことになりますが、生産者や販売者の証票をつけたことで、少しずつ回復していきました。1886年になると、久留米絣同業組合が発足され、高品質な製品が全国へ広まっていきます。
大正から昭和は、久留米絣の機械化が進められた時代です。足踏み織機や動力織機などが導入されると、質の高い製品がスムーズに作られるようになり、生産量が大幅に増加しました。
第二次世界大戦が始まり、綿織物の生産が禁止されると、久留米絣は再び苦境に立たされます。戦争が終わっても、洋服の普及と着物人口の減少により、生産量は落ち込んだままでした。
しかし、1957年、国から重要無形文化財に指定されると、生産は徐々に回復。積極的に保護と育成が行われるようになり、1976年には、伝統的工芸品にも指定されました。現在は高級な綿織物として、多くの人から愛されています。
手造りの味が光る久留米絣の特徴
久留米絣の製品は、深い味わいのある模様が特徴です。熟練の職人が施す絣模様は、素朴な温かさと美しさが人気であり、木綿絣の中でも高い人気を誇ります。種類も豊富で、小柄や中柄、大柄、絵絣など、製品によってさまざま。デザインの技術は、現在も進化を続けています。
緻密できれいな模様をつけるには、職人の高度な技術が必要。丁寧な手作業で糸束を縛る「手括り(てくくり)」と呼ばれる作業が、柄や仕上がりを左右します。ほどけないように縛るだけでなく、解きやすさも考慮した繊細な作業が求められるため、長年の経験が試される工程です。
久留米絣は、色合いの鮮やかさや深みも魅力のひとつ。上質な藍色は、多くの人を魅了しています。製作での色の基準は、天然で純正の藍を使うこと。天然の藍を発酵させる昔ながらの染色方法が、現在もしっかりと受け継がれており、独特の凛とした美しさを表現しています。
丈夫な久留米絣は、普段着としてもよく使われており、どんな季節でも常に快適。通気性が良いため、夏は涼しさを、冬は暖かさを感じることができます。経年によって風合いが変化し、より味が出てくるため、長く愛用する人も多いのです。
久留米絣の現在とお手入れのコツ
現在の久留米絣は、伝統的な技術を守りつつ、新しいスタイルにも挑戦しています。昔ながらの藍染だけでなく、白や赤、黄色といったポップな色合いの製品も登場。和装だけに限定せず、ワンピースなどの洋服も多く作られるようになりました。
また、久留米絣を用いたバッグや小物、雑貨なども人気。活躍の場が広がり、人々の日常にさりげなく溶け込む織物となっています。
久留米絣を洗濯する場合は、洗濯機を使わず、優しく手洗いをしてください。その際、漂白剤を使うと劣化を早めてしまうので、おしゃれ着用の中性洗剤を使うようにしましょう。色落ちする可能性があるので、ほかの洗濯物とは分けた方が安全です。
干す際には、日の当たる場所を避けることが大切。日光は色あせを加速させるので、風通しの良い日陰で干すことをおすすめします。
久留米絣の見学・体験ができる場所
池田絣工房
所在地 | 福岡県筑後市久富1840 |
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電話番号 | 0942-53-2416 |
定休日 | 日曜日 |
営業時間 | 10:00~17:00 |
HP | https://www.instagram.com/ikedakasurikoubou/ |
備考 | 工房見学と藍染体験 90分4,800円(税込み) |
下川織物
所在地 | 福岡県八女市津江1111-2 |
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電話番号 | 0943-22-2427 |
定休日 | 要問い合わせ |
営業時間 | 9:00~16:00 |
HP | https://oriyasan.com/ |
備考 | 工場見学 |