京鹿の子絞とは
「京鹿の子絞(きょうかのこしぼり)」とは、鹿の子絞という技法を用いた絞染の一種。主に京都府で生産され、1976年から経済産業省指定伝統的工芸品にも指定されています。
布を糸で硬く括り、染め上げることによって文様を作り出す鹿の子絞。でき上がった文様が小鹿の背中の模様に似ていることからこう呼ばれるようになりました。
機械でプリントされる”鹿の子絞風”な生地とは異なり、文様の一つ一つを手作業で括るこの技法は、その作業の細かさからひとつの作品に非常に長い時間がかかります。
その中でも下絵なしでは作成不可能といわれるほど、細緻な文様を作り出す「京鹿の子絞」。
工程はざっくりと分けて、下絵・括り・染め分け・染め・ゆのし、の5工程です。
「京鹿の子絞」の肝ともいえる括りでは、代表的な技法の疋田絞(ひったしぼり)を始めとした約50種類もの技術を使い分け、下絵に合わせて括っていきます。
一面疋田絞がほどこされたた総疋田絞の着物一反分を仕上げるために約15万粒、振袖ともなれば約17万粒もの括りがほどこされ、熟練のスピードをもってしても1年から2年を費やすといわれています。
そして、それぞれの工程を専門の職人が担当し、括り以外の工程でも気の遠くなるような作業が必要となります。決して安価ではない「京鹿の子絞」ですが、これだけの手間と時間を考えれば納得の値段といえるでしょう。
着物や振袖に使われるほかにも、帯揚げなどの和小物まで用途はさまざま。近年では和装素材としてだけではなく、日常でも使えるファッションやインテリアなどにも用いられ、注目されています。
京鹿の子絞の歴史 その豪華さから姿を消した江戸中期
絞染の歴史は古く、600年ごろにインドから伝わり日本各地に広まったといわれています。室町時代から江戸時代初期にかけて、縫い締め絞を使った「辻ヶ花染(つじがばなぞめ)」が爆発的に人気を博すと、各地でさまざまな新しい技法が誕生しました。その際に京都一帯で鹿の子絞と呼ばれる技法が確立。「京鹿の子絞」が世間に知れ渡るようになったのです。
京鹿の子絞は江戸時代中期に最盛期を迎え、当時京都では括りを担当する職人は「鹿の子結い」「結い子」と呼ばれるようになりました。
同じく江戸時代に人気を博した木綿に絞染をほどこした「有松絞(ありまつしぼり)」と異なり、高価な絹を布地とする「京鹿の子絞」。その中でもひと際時間をかけて作られた総絞は、贅沢品として奢侈禁止令(しゃしきんしれい)の規制対象となったことも。
奢侈禁止令によって一時は表舞台から姿を消した「京鹿の子絞」でしたが、その高度な技術は脈々と受け継がれ現在も職人の手によって作り続けられています。しかしその一方で、若い作り手が減っていることから職人不足の問題も。京都府では技術を繋いでいくために、地域をあげて展示会や体験講座を設け、若者に興味を持ってもらおうと活動をしています。
作り手の思いがリレーしていく京鹿の子絞の特徴
「京鹿の子絞」の特徴は、ほかの絞染では類を見ないほどの細緻な括りによる文様と、染め分けによって作られる鮮やかな多色染色にあります。
括られた布に残る突起は「括り粒」と呼ばれ、染色後もあえて残されます。そしてその細かな括り粒から生まれる柔らかな凹凸は、見る角度や着る人の体形によってさまざまに表情を変えるのです。
括りの技法の中でも特に技術を必要とする疋田絞(ひったしぼり)は、染め上がりの文様の粒が斜め45度の角度で美しく並びます。この疋田絞を全面に施した総疋田絞は、美しい文様と括り粒による立体感に加え、柔らかで弾力のある手触りも大きな特徴。この柔らかさは小紋や友禅にはない「京鹿の子絞」ならではのものです。
また、全工程を手作業で行う「京鹿の子絞」は熟練の腕をもってしても、柄に大きさのバラつきや計算できない色の掠れなどがでてしまいます。しかし、その小さなバラつきが人のぬくもりを感じさせる唯一無二の美しさの所以。機械では決して表現することのできない手作業ならではの魅力といえます。
文様の複雑さと細かな染め分けのため、仕上がりまでに何人もの職人の間を行き来する「京鹿の子絞」。特に複雑な構成のものは括り、染め分け、染めを何度も往復して仕上げます。それだけ作り手の手間暇や思いが込められた「京鹿の子絞」は、現代でも憧れの着物として輝き続けているのです。
京鹿の子絞の現代での使われ方とお手入れ方法
現在でも根強い人気を誇り、成人式の振袖などでも見ることが多い「京鹿の子絞」。和装素材としてはもちろんのこと、近年では日常のファッションやインテリアにも取り入れられ注目を集めています。
上質な絹織物で作られている「京鹿の子絞」は、柔らかな肌ざわりからストールに最適。職人が技法を凝らした美しいストールは贈り物にもおすすめです。
また、美しい文様と鮮やかな染めが施された生地は、そのままでも十分に存在感を持っています。壁飾りや棚にかける布として使ってもいいでしょう。そのほかにも柔軟な発想でさまざまなシーンに取り入れられています。
「京鹿の子絞」のお手入れ方法ですが、基本的に水洗いすることはできません。凹凸による陰影も作品の一部である絞染にとって水洗いはご法度。括り粒のしわが取れてしまったり、色落ちしたりする恐れがあるからです。汚れた際はドライクリーニングに出し、年に一度は虫干しをするようにしましょう。
京鹿の子絞の見学・体験ができる場所
京都絞り工芸館
所在地 | 京都市中京区油小路通御池南入ル |
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電話番号 | 075-221-4252 |
定休日 | 月曜日(変更有)、お盆休、年末年始 |
営業時間 | 9:00~17:00 |
HP | https://www.shibori.jp/ |
備考 | 気軽に楽しめる一般体験コース、本格的な特別絞り講座などがあります |
京の絞り工房 川崎
所在地 | 京都府京都市中京区壬生馬場町30 |
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電話番号 | 075-821-4988 |
定休日 | 年末年始 |
営業時間 | 9:00~17:30 |
HP | http://sibori-kawasaki.sakura.ne.jp/ |
備考 | 【体験メニュー】 綿ハンカチ1,000円~・綿Tシャツ2,500円~・ショール3,000円~ |