京漆器とは
京漆器とは、京都府で作られている漆器です。京漆器は日本を代表する工芸品であり、英語で「ジャパン」と称されるほど。木地に何度も薄く塗りこまれることで、乾燥後に漆が持つ強い接着性が発揮され、丈夫で美しい光沢を放ちます。
気品高く、優美なデザインから、祝祭事の贈り物として重宝されてきた京漆器。時代と共に変化を遂げ、今では人々の生活様式に合わせて多様な製品が生み出されています。
京漆器の歴史と時の権力者
京漆器のはじまりは、奈良時代にまでさかのぼります。漆を加工する技術自体は、すでに縄文時代からあったのですが、奈良時代に入ると漆器に模様を描く蒔絵(まきえ)技術が誕生。平安時代、室町時代へと蒔絵の知識・技術が引き継がれていきました。
特に、寺院や貴族では美しい蒔絵が施された品々を重宝し、専属の蒔絵師を抱えるほどに。安土桃山時代では武士の嗜好が反映され、より荘厳で華やかな漆器へと発展していきます。
そのような中、京都では茶の湯文化が盛んになり、京漆器は茶器として使用されることが多くなりました。需要の拡大と共に漆器の製造・販売の場が増え、京漆器は全国へと広まって行ったのです。
さらに、江戸時代には繊細な雰囲気が漂う京漆器も誕生。本阿弥光悦や尾形光琳といった著名な工芸家らによって、京漆器の美しさはさらに磨きがかかっていきました。大名同士で京漆器を贈り合うことも多くなり、漆器が地方で作られるようになったきっかけにもなったといわれています。
このように、長い年月をかけて京漆器の魅力は全国へ伝わり、1976年には国の伝統的工芸品に指定されることになったのです。
内外に優美さを秘める京漆器の特徴
深みのある色合い
京漆器で最もポピュラーな色は「黒」ですが、ほかの色よりも一段と深みを感じるのはなぜでしょうか。
実は、漆は採集した時点では黒色ではなく、茶色の液体です。黒色は、漆を精製する過程で少しずつ鉄分を混ぜることで生まれます。鉄の酸化作用が働き、漆が黒く変色していくからです。
漆の独特な黒色は漆器を作る過程で生み出されるものであり、ほかのどんな方法でも再現できません。「漆黒」という言葉は、まさに「漆ならではの黒色」という意味を如実に表しているといえます。
また、京漆器の艶やかな光沢は、漆に油分を加えることで生まれます。さらに顔料を加えると、朱や緑といった色のついた漆にも変化。お椀であれば、外側を黒、内側を朱色とすることが多く、盛り付ける料理の彩りが一層映えます。
静かな美しさがもたらす「わび」「さび」
京漆器が持つ美しさは、漆の光沢はもちろん、描かれる蒔絵によるところも大きいといえるでしょう。
蒔絵は何十種類もの毛筆を使用し、漆で模様を描きながら金粉などを定着させる技術。金粉をつける量やつけ方によって、ぼかしや色の変化を表現します。そのため、単なる平面図ではなく、立体感を感じられるところも京漆器の特徴です。
また、貝片をちりばめる螺鈿(らでん)や青貝は、貝が放つ独特のきらめきを京漆器に与えます。しかし、それらはまぶしいほどの輝きではなく、ほのかに灯る月明りのような輝き。
このような控えめな美しさは、茶の湯文化と共にあった京漆器の歴史が関係しているのでしょう。茶の湯文化にある「わび」「さび」の観念が影響し、使用者の心に静けさをもたらす不思議な輝きをたたえているのです。
京漆器の現代での使われ方とお手入れ方法
京漆器は古来から茶道具や食器、家具として使われることが多いです。しかし、今ではコンパクトミラーやしおり、小物入れなどのこまごまとした京漆器も生まれ、人々の生活を支えています。
京漆器の中で最も使用頻度が高い椀は、熱い汁物を入れても使用可能。ただし、沸騰したてのものを入れると漆が白く変色する恐れがあるため、注意が必要です。白い変色は急激な温度変化によるものであることから、使用前に一度ぬるま湯に通しておくと安心して使用できます。
また、低温のものを入れることも可能ですが、冷蔵庫に長時間入れておくと漆器の乾燥・ひび割れを招きかねません。京漆器は保存用としては不向きなため、食べる直前まで冷やす程度にとどめましょう。
洗浄時には、中性洗剤をつけた柔らかいスポンジを使用。京漆器を傷つけないよう、なるべく陶器とは別々に洗うことをおすすめします。漆の光沢を長持ちさせたい場合は、洗い上がった後に布巾で拭くといいです。蒔絵がついたものは、柔らかい布で優しく拭き取ってください。
ひびや割れが生じたときには、購入元へ修理依頼をします。漆の乾燥には2ヶ月以上かかることが多いため、スケジュールに余裕を持って修理依頼をしてみてください。
京漆器の見学・体験ができる場所
京都伝統産業ミュージアム
所在地 | 京都府京都市左京区岡崎成勝寺町9-1 京都市勧業館みやこめっせ 地下1階 |
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電話番号 | 075-762-2670 |
定休日 | ホームページのカレンダー参照 |
営業時間 | 9:00~17:00(入館は16:30まで) |
HP | https://kmtc.jp/ |
備考 | 見学・購入可能 |
手づくり工房 京都屋
所在地 | 京都府京都市南区吉祥院定成町30 ピュールシャトー303 |
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電話番号 | 075-662-1291 |
定休日 | 工房へお問い合わせください |
営業時間 | 工房へお問い合わせください |
HP | https://kyotoya-taiken.com/ |
備考 | 加飾体験あり |