曲げわっぱとは
曲げわっぱ(まげわっぱ)は、秋田県大館(おおだて)市で生産されている曲物(まげもの)です。産地の名前を取り、「大館曲げわっぱ」と呼ばれることもあります。
幅広い種類があり、櫃(ひつ)や盆といった和の製品だけでなく、コーヒーカップやビールジョッキといった洋風のものも多数。国内だけでなく、海外でも高く評価されている工芸品です。
曲げわっぱの歴史と佐竹義宣の貧困対策
曲げわっぱの歴史の始まりは、奈良時代です。当時、秋田の木こりたちは、伐採した杉の木を使って器を作り始めました。木の板を曲げ、使いやすいように形を整えたその器が、曲げわっぱの起源とされています。
秋田の木の器は、その後も生産が続けられ、少しずつ進化していきました。平安時代の遺跡の中から発掘され、大館郷土博物館に展示されている製品は、現在の曲げわっぱとほぼ同じ形をしています。
曲げわっぱが本格的に産業となったのは、江戸時代のことです。当時の大館城下は、ひどい冷害や水害に悩まされており、人々がその日の食事にもありつけないほどの危機に陥っていました。大館城主の佐竹義宣(さたけ よしのぶ)は、深刻な貧困を打開するため、秋田杉を用いた曲げわっぱの制作を命じます。
豊富な秋田杉の原木は、農民が年貢米の代替えとして運搬。山から運ばれてきた木材を、下級武士たちが加工し、精力的に曲げわっぱを生産していきました。それまでは農民の副業だった曲げわっぱ作りは、下級武士の副業や内職へと変わっていきます。
生産量が上がり、より多くの人が手に取るようになった秋田の曲げわっぱは、良質な秋田杉の魅力と繊細な技術が注目され、人気も上昇。販路が徐々に広まり、山形や新潟、関東方面でも購入する人が増えました。秋田の大館周辺だけで使われていた曲げわっぱは、全国で使われるようなります。
江戸時代末期になると、曲げわっぱの技法は、現在とほぼ同じになったとされています。薄く剥ぎ取った杉を熱湯で柔らかくし、慎重に曲げて山桜の皮で止める手法は、現在の職人も行っているものです。
時代が進み、アルミやプラスチックの製品が普及し始めた頃は、曲げわっぱの需要が減少し、生産量も低下。しかし、秋田杉の魅力や安全性が再評価され始めると、少しずつ回復していきます。本物志向が強い人や、子供の健康を気遣う人たちからの需要が増え、また活気を取り戻すことができたのです。
1980年には、国から伝統的工芸品に指定され、多くの注目を集めました。日本には多くの曲物がありますが、伝統工芸品となったのは、大館の曲げわっぱのみです。
秋田杉の良さが詰まった曲げわっぱの特徴
曲げわっぱは、見た目の美しさが高く評価されている曲物。良質な秋田杉の木肌と美しい木目が、多くの人を魅了しています。柔らかさを感じさせる木目は、年輪がほぼ同じ間隔になっていることが特徴です。
また、明るい印象の色合いと優美な曲線も、曲げわっぱの美しさを構成する要素。白い木地は、塗料を使わない「白木(しらき)」という手法によるものです。秋田杉本来の白さを引き出し、爽やかな色合いを表現しています。独特なカーブを作り出すのは、職人の高度な技術。丸い型に合わせて丁寧に曲げ、美しく仕上げていきます。
杉は軽いため、日常の中で快適に使えることも魅力のひとつ。弁当箱などの持ち運びが多い製品でも、体に負担がかかりません。見た目の美しさだけでなく、扱いやすさにもこだわった工芸品です。
秋田杉で作られている曲げわっぱは、香りが素晴らしいことでも有名。お盆や弁当箱などを使っていると、心地よい香りが漂い、気持ちを落ち着けてくれるのです。杉の香りのリラックス効果が得られる(※)曲物として、多くの人に癒しを与えています。
杉は吸湿性に優れているため、曲げわっぱの弁当箱や飯櫃(めしびつ)に入れたご飯は、冷めてもあまりべたつきません。通常の弁当箱は蓋の裏に水滴がついてしまい、ご飯に余計な水分が加わることも多いですが、杉は水分を吸い取ってくれます。そのため、ふっくらした状態が長く続き、いつでもおいしく食べられると評判です。
出典:秋田スギから製造したバイオエタノールの殺菌効果と香りによる癒し効果(秋田県総合食品研究センター)
曲げわっぱの現在とお手入れのコツ
現在の曲げわっぱは、伝統を守って定番の商品を作り続けるだけでなく、新しい挑戦も積極的に行っています。モダンなデザインを取り入れたおしゃれな製品などは、従来の曲げわっぱとは異なる魅力で話題を集めました。その美しさがSNSなどで話題になることも多く、着実に新しいファンを増やしています。
曲げわっぱの手入れの基本は、表面を傷つけないように洗うことです。硬いたわしなどは避け、柔らかいスポンジで優しく洗いましょう。洗剤は、一般的な中性洗剤がおすすめです。漂白剤やクレンザーなどは余計なダメージを与えてしまうので、注意してください。
水洗いのあとは、水分を丁寧に拭きとり、よく乾かすことが大切です。ただし、無理に乾かそうとしてはいけません。直射日光を当てたり、火の近くに置いたりすると、変色や変形が起こりやすくなります。食器洗い機や乾燥機を使った方法も、曲げわっぱにはよくないものです。
劣化を防ぐ乾かし方は、風通しの良い日陰に置くこと。ゆっくり自然乾燥させる方法であれば、安全に湿気をとばすことができるでしょう。
曲げわっぱの見学・体験ができる場所
大館曲げわっぱ協同組合 体験工房
所在地 | 秋⽥県⼤館市字⼤町29-1 |
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電話番号 | 0186-49-5221 |
定休日 | 要問い合わせ |
営業時間 | 要問い合わせ |
HP | https://odate-magewappa.com/ |
備考 | 大館曲げわっぱの手作り体験 |
株式会社大館工芸社 ハンディクラフトスタジオ
所在地 | 秋田県大館市釈迦内字家後29-15 |
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電話番号 | 0186-48-7700 |
定休日 | 要問い合わせ |
営業時間 | 要問い合わせ |
HP | http://www.magewappa.co.jp/ |
備考 | 曲げわっぱの製作体験、製造工場の見学、ショールームでの見学&購入 |