南部鉄器とは
南部鉄器とは、岩手県盛岡市・奥州市を中心に作られている鋳物(いもの)です。鉄が放つ重々しい雰囲気と相反するように、美しく細やかな文様が特徴的。実用性だけでなく、芸術性としても非常に価値のある鉄器です。
また、南部鉄器はお湯を沸かすことで、表面から鉄が分泌されて溶け込む性質もあります。食生活の欧米化が進み、鉄分不足になりやすい現代。「お茶を入れるだけで鉄分が摂れる」という南部鉄器は、若い女性をはじめ多くの人々から人気を集めています。
南部鉄器の歴史と鋳物の作り手
南部鉄器のはじまりは、江戸時代初期にまでさかのぼります。
現在の岩手県北部~青森県西部を治めていた南部藩では、大砲や鐘といった鋳物作りに秀でた者たちがいました。ちょうどその頃、「武よりも文を重んじる気風」が南部で広がりはじめ、特に茶道の発展が目覚ましかったといわれています。
そこで、南部藩主は京都から釜師を呼び寄せ、茶の湯釜を作らせることに。幸いにも、南部藩は良質な原材料に恵まれていたため、茶の湯釜の製造は順調に進んでいきました。その上、藩を上げて製造を推進し、多くの釜師・鋳物師を盛岡へ招聘。
もとから鋳物作りに秀でた者たちも茶の湯釜作りに加わり、南部鉄器の土台が作られます。1700年代には鍋作りに秀でた者が用途に合わせて改良を重ね、茶の湯釜だけでなく日用品まで作られるようになりました。それこそが「南部鉄器」であり、今もなお愛されて止まない鉄鍋や鉄瓶が誕生したきっかけとなったのです。
明治時代に入り、廃藩の影響で南部鉄器の勢いは下火になりかけたものの、県主催の催しや勧業によって息を吹き返します。その後も南部鉄器の成長は止まらず、1900年には南部鉄瓶業組合が設立されることに。
大正、昭和と時代が変わるにつれて盛衰の波が押し寄せた南部鉄器でしたが、持ち前の質実剛健さでなんとか乗り切ります。そして1975年には、国の伝統的工芸品に指定されるまでになったのです。
人の体と生活に馴染む南部鉄器の特徴
原材料が鉄である南部鉄器は、シンプルな見た目からは想像できないほど、高い耐久性を誇ります。50年、100年と世代を超えて使用することができ、非常に長命。使えば使うほど、味わい深い風合いを醸し出してくれます。
また、製造中に使用される「砂型」という特殊な型は、南部鉄器の表面に細かな凹凸を形成し、焦げ付き防止としてはたらきます。この凹凸には料理するごとに油が染み込み、さらに焦げ付きにくくなっていくのです。
ほかにも、南部鉄器は料理したり、お湯を沸かしたりすることで、鉄器の鉄分が溶け出す特徴もあります。南部鉄器から溶け出す鉄分は「二価鉄」と呼ばれ、鉄分の中でも人間の体に最も吸収されやすいもの。特に、味噌や食酢など酸味のある調味料で料理すると、より多くの二価鉄が溶け出すといわれています。
この特性を活かして開発された卵型の「鉄分補給グッズ」は、通常の鍋でも使用可能。鍋に入れてお湯を沸かすだけで、鉄分補給グッズから鉄分が溶け出る仕様になっています。小型で扱いやすい鉄分補給グッズは、鉄分不足に悩む人々にとって救世主たる存在といえるでしょう。
その上、南部鉄器で沸かしたお湯は口当たりもまろやかになり、非常に飲みやすいです。中国茶との相性が良いことから、中国でも南部鉄器の人気は非常に高い傾向にあります。南部鉄器は伝統的工芸品としてだけでなく、機能性の高さから国内外の人気を集めている珍しい鋳物といえるでしょう。
南部鉄器の現代での使われ方とお手入れ方法
南部鉄器の伝統的な鉄瓶や鉄器は基本的に黒色ですが、現代ではカラフルでモダンなデザインの鉄器も増えてきています。鮮やかな色の急須や先進的なデザインの鍋敷きなど、若い世代でも手に取りやすい形へと日々進化しているのです。
中には、ワッフル焼きやコーヒーポットセットを販売している工房も。伝統的な技術を活かしながら、食生活の洋風化にもばっちり順応しています。
日常的なお手入れは、非常に簡単。やかんの形をした「鉄瓶」は、使用後に中のお湯を出しきり、ふたを開けて余熱で水分を蒸発させるだけです。長期間使用しない場合は、できるだけ湿気の少ない場所に保管しましょう。
鉄鍋を使用した後はたわしで汚れを落とし、火にかけて水分を蒸発させます。洗剤を使って洗ってしまうと、鉄器の表面に染み込んだ油まで落としてしまい、焦げ付きやすくなるため要注意。万が一、焦げ付きが生じた場合には、お湯に浸け置きしてみてください。10~15分ほどで簡単に焦げ付きが剥がれていきます。
鉄分補給グッズは、温かいうちに水分を拭き取ります。冷えた後は、クッキングペーパーに包んで保管しましょう。鉄分は体外から摂取するほかないため、鉄分不足の方はお手入れの簡単な鉄分補給グッズを上手に活用してみてください。
南部鉄器の見学・体験ができる場所
公益財団法人 岩手県観光協会
所在地 | 岩手県盛岡市盛岡駅西通二丁目9番1号(マリオス3F) |
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電話番号 | 0197-24-1551(水沢鋳物工業協同組合) |
定休日 | 土日祝、お盆、年末年始 |
営業時間 | 8:30~17:15 |
HP | https://iwatetabi.jp/edu_travel/detail/03215/92.html |
備考 | 南部鉄器の文鎮づくり体験 2,600円(要予約) |
OIGEN FACTORY SHOP
所在地 | 岩手県奥州市水沢羽田町字堀ノ内45 |
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電話番号 | 0197-24-2411 |
定休日 | 毎週水曜日 |
営業時間 | 9:00~17:00 |
HP | https://oigen.jp/factoryshop |
備考 | 工場見学(要予約) 平日(月・火・木・金)のみ13:30~16:00 |