信州紬とは
信州紬とは、長野県で作られている特産品の絹織物。もともと各地域で独自に発展したため、地名をつけて「上田紬」「松本紬」「伊那紬」とも呼ばれます。長野県全域に産地があり、それぞれに特色があります。
おもな特徴は、手紡ぎ糸の先染め、平織りの技法です。タテ糸とヨコ糸に異なる糸を使用。太さや滑らかさの違う2種の糸から、独特な風合いが醸し出されます。
絹の軽さと柔らかさを持ちながら、丈夫で長持ちする信州紬。親から子・孫へと引き継いでいくことができる逸品です。 1975年に経済産業大臣より伝統的工芸品として指定されました。
信州紬の歴史と「おカイコさん」
信州では古くから養蚕業(ようさんぎょう)が盛んでした。豊かな自然の中で桑の木を育て、カイコを飼育して繭(まゆ)から糸を紡ぐ。親しみをこめて「おカイコさん」と呼び、身近に暮らしていました。
江戸時代初期、絹織物の原料である生糸は、ほとんど中国から輸入していました。幕府は財政立て直しのため、養蚕業を奨励して、国産の絹を増産させたのです。
江戸時代中期、安曇野で、天蚕(てんさん)と呼ばれる野生のカイコの「山つけ飼育」が始まりました。この「山つけ飼育」は桑の木を育てる手間のかわりに、日当たりや水はけ、病害虫など繊細な配慮が必要です。労力のわりに糸の採取量が少ないため、希少価値が高いものになりました。
天蚕の糸は、焼岳の降灰や第二次世界大戦により出荷が途絶え、「幻の糸」と呼ばれましたが、戦後には復興して今も守り続けられています。
江戸時代後期、衣服の規制が厳しくなり、絹の着物は武家しか着用できませんでした。しかし、廃材を利用して作った紬は高級品ではないと考えられ、庶民でも着ることが許されたのです。天然由来の多彩な染色と味わい深い光沢、丈夫で長持ちする信州の紬は、町人や商人のみならず武家の奥方にも人気の品となりました。
開国後の洋装化がすすむなか、まだ多くの女性が和装だったため、信州の紬は大正時代まで盛り上がりを見せました。衰退の途をたどったのは関東大震災以降です。
戦後、長野県や県下の自治体の振興策により再生して、各地域でそれぞれに歩んでいた信州の紬は、1975年に伝統的工芸品に指定され、新たなブランド「信州紬」として結集しながら、継承しています。
一貫生産から生まれる信州紬の特徴
信州紬は、手紡ぎした糸を先染めし、手機(てばた)でひとつひとつ平織りします。今は力織機(りきしょっき)を使っているところもありますが、糸づくりから機織りまでの工程は、工房内で一貫して行われます。そのこだわりこそが伝統技術を守り、確かな品質を生み出しているのです。
たくさんの植物から染材料が採れることも信州の大きな強みです。おもな種類は山桜、りんご、カラマツ、どんぐり、白樺など。自然に恵まれていることで色の濃淡にも深みが増します。現在は化学染料もあわせて使いながら色彩豊かに表現しています。
信州紬の伝統的な柄は、縞(しま)や格子(こうし)、絣(かすり)、無地です。足踏み式の機織り機で一反ずつ手織りしていく技法は、織り手の個性や心情が繊細に表れるので、世界に二つとないものができあがります。
丈夫で長持ちすることも特徴のひとつです。タテ糸にヨコ糸を通してしっかりと打ち込みながら織ることで、目が細かく丈夫な織物になるのです。
希少価値の高い天蚕から採れる糸は山繭(やままゆ)とも呼ばれます。艶やかな緑と気品のある光沢が美しい山繭のみで織った紬は、信州だけの特産品。ほかの絹と比べて、軽くて柔らかく、保温性が高いことからも珍重されています。
代表的な産地と特徴
・上田紬:長野県上田市。大島紬や結城紬とならぶ日本三大紬のひとつ。真田家が始めた事業で、強くて丈夫なのが特徴です。「上田縞」と呼ばれるくっきりと鮮やかな縞柄や格子柄が有名で、江戸時代には井原西鶴の浮世草子にも登場したほど人気がありました。
・伊那紬:長野県伊那谷地方。最盛期には120軒ほどあった工房も、現在は老舗の久保田織染工業1軒のみ。山桜、りんご、カラマツなど自然の染料は目にも優しく温かみがあります。染材料の採取から高機(たかばた)による手織りまで、職人の技が光ります。
・松本紬:長野県松本市。早くから藍染を行っていましたが、途中から天蚕を取り入れるようになりました。天蚕の糸を使い、天然の染料で染めて手機で織るという極めて伝統的な手法で、高価な逸品です。
信州紬は、ほかにも長野県全域で作られています。それぞれの地域により独自の技法を貫き、違った特色を持っています。
信州紬の現代の使われ方とお手入れ方法
信州紬は現代も、おもには着物や帯の布地として使われています。最近は各工房で工夫をして、ストールやバッグ、ネクタイ、マスク、小物入れなど日常的に使いやすい商品も登場。伝統の色柄を守りつつ、明るく鮮やかなものまで日々改良されています。
信州紬は、自宅で洗濯もできます。ただし、色落ち、縮み、しわに注意して、手洗いをしましょう。いずれにしても多少縮むことはあります。不安であれば専門店に相談することをおすすめします。
信州紬の見学・体験ができる場所
駒ヶ根シルクミュージアム
所在地 | 長野県駒ケ根市東伊那482番地 |
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電話番号 | 0265-81-8750 |
定休日 | 水曜日、年末年始 |
営業時間 | <4~11月>9:00~17:00 <12~3月>9:00~16:30 |
HP | https://komagane-silk.com/ |
備考 | 機織り体験 ランチョンマット900円 コースター500円 |
久保田織染工業
所在地 | 長野県駒ヶ根市東町2-29 |
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電話番号 | 0265-83-2202 |
定休日 | 土日祝祭日、年末年始 |
営業時間 | 8:00~17:00 |
HP | https://inatumugi.com/index.html |
備考 | 工房見学(平日のみ)、花瓶敷織物体験1,000円 どちらも要予約 |