東京無地染とは
東京無地染(とうきょうむじぞめ)とは、江戸時代中後期に発展した染物です。主に東京都新宿区や中野区、杉並区、神奈川県で作られています。
無地の白生地を顧客の好みに応じて染め上げる東京無地染。色見本は170色あり、職人が手作業で、オーダーされた色に染めていきます。
無地染は、染色技法のなかでも最も基本的な方法です。ただ、13メートルにもなる反物をムラなく均一に染め上げるのは至難の技。
なぜなら染色には生地の素材や染め付ける日の気温・湿度なども深く関わってくるからです。職人はそんな条件もすべて考慮し、微妙な風合いや色合いを調節していきます。
そんな職人技が光る東京無地染。ベーシックながらも格式高い理由がこの染色の難しさにあります。
一度染めたものでもまた染め直しができるので、時代を問わず、長く着られるのも東京無地染の魅力です。
「江戸っ子」の粋ともてはやされた東京無地染の歴史
無地染は古代の草木染めから始まりました。草木の根や花、葉から布地に色をつけます。飽きがこない自然な色彩は品の良さも感じられます。
平安時代に仏教が伝来するとともに藍や紅花が渡来。それをきっかけに大和民族独特の「浸し染染め(ひたしぞめ)」という無地染の技術が確立されます。浸し染めとは、織物や織り糸を染料の液に浸して染め上げる方法です。
染めによって模様や柄を作る「ぼかし」や「絞り」などの技法も、このころから盛んにおこなわれます。
鎌倉時代には絹織物が発達。灰汁や鉄媒染(てつばいせん)、酢などの草木染めに必要なものが揃い、浸し染めは大きな進歩を遂げていきました。
江戸時代には幕府による奢侈禁止令(しゃしきんしれい)が出され、庶民が身につけられる色が「茶色」「鼠色」「藍色」に限定されてしまいます。しかし、江戸の人々はそれくらいではお洒落を諦めませんでした。
そこで流行したのが濃い青みの紫である「江戸紫(えどむらさき)」や、黄みの深い赤褐色の「江戸茶(えどちゃ)」などの色です。これらの色に染め上げた無地染が、庶民のあいだで愛用されるようになりました。とくに江戸紫は「江戸っ子の粋」としてもてはやされるほど盛んに流通したようです。
このように、江戸庶民のあいだで深く愛された東京無地染。シンプルながらも気品溢れるその染物は江戸の文化のなかで発展し、東京を中心に現代まで受け継がれてきました。
そして東京無地染は、1991年には東京都の伝統工芸品に指定され、2017年には国の伝統的工芸品にもなったのです。
今でもいくつかの工房で手作業を中心に無地染がおこなわれており、反物以外にも生活雑貨などが販売されています。
基本的ながら奥深い東京無地染の特徴
控えめながらも品が感じられる東京無地染。普段着として、パーティーや食事会などの装いとして、どんな場面にも対応できるベーシックな染物です。
職人が顧客に見せる色見本は微妙な濃淡の違いも含めて170色あります。この色見本から好みの色をオーダーしてもらい、赤・黄・青・緑・黒のたった5つの染料から色を作り出して染めていきます。
染める生地の質感や柄によっても染め上がりの色は違ってくるため、色見本通りの色を表現できるかは職人それぞれの腕にかかっています。
既存の色だけでなく、オリジナルの色合いにも染め上げることができるので、自分にぴったり似合う色にしてもらうことも可能です。
東京無地染の現代での使われ方とお手入れ方法
東京無地染は現在も幅広く活躍している染物です。着物やストール、スカートなどの身につける物から、ブックカバーやバッグなどの生活雑貨も作られています。
着た後の着物は風を通して湿気を取ります。そのままタンスに入れてしまうとカビや黄ばみの原因となりますので注意してください。
ほこりを落とすことや、シミなどのチェックも忘れずに。汚れやシミに気がついたら、早めに着物専門のクリーニングやお直しをしてもらえる職人のもとへ持って行くのがおすすめです。
東京無地染は一度染めたものからほかの色に染め直すこともできます。長く着ていると色や模様に飽きてきたり、汚れが目立ってきたりすることもあるかもしれません。
そんなとき、染め替えをすることによって好きな色にできますし、同じ模様でもまったく違う雰囲気にすることができます。
時代に合った色に染め替え、代々受け継いでいける着物。それが東京無地染なのです。
着物を着ない方や少しハードルが高いと思われる方は、東京無地染を使った雑貨や装飾品などを取り入れることで、日本の古き良き伝統を感じることができるでしょう。
東京無地染の見学・体験ができる場所
株式会社近藤染工
所在地 | 東京都江東区清澄2-15-3 |
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電話番号 | 03-3641-2135 |
定休日 | なし |
営業時間 | 10:00〜17:00 |
HP | http://kondosenkou.com/ |
備考 |
体験として綿の手拭いを染めることができます。反物やアクセサリーの販売もおこなっています。 【染色体験】 |
深川・江戸 伝統工芸品ギャラリー&ショップ「季華」
所在地 | 東京都江東区富岡1-23-13 |
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電話番号 | 03-6458-5184 |
定休日 | 火曜日 |
営業時間 | 10:00〜17:00 |
HP | http://www.kika-fukagawa.jp/ |
備考 | 東京無地染を実際に見たり購入したりできます。 |