豊岡杞柳細工とは
豊岡杞柳細工(とよおかきりゅうざいく)とは、兵庫県豊岡市を中心とした地域で製造している、柳でつくったかご細工です。しなやかでたくましいコリヤナギをつかった豊岡杞柳細工は、軽くて丈夫で通気性がよい、三拍子そろった製品。機能性に富んでいて、かつ温もりがあるので今でも根強いファンがいます。1992年に経済産業大臣より国の伝統的工芸品として指定されました。専売制度で全国区になった豊岡杞柳細工の歴史
以前は家庭のどこにでもあった、柳行李(やなぎこうり)の収納箱や弁当箱。「柳行李」とは柳の茎で編んだかごのことで、古くは旅の荷物入れ、薬売りの行商かごや飛脚の運搬箱と、日本人の生活に欠かせない品物でした。
杞柳(きりゅう)とは、コリヤナギという柳の一種を指します。和名は行李柳(こうりやなぎ)。怪談話に出てくる柳は「しだれ柳」で上から葉が垂れ下がっていますが、コリヤナギは地に植わった株からまっすぐ上へと伸びています。河原や水辺に自生する植物です。
豊岡は盆地で海抜が低く、町の中心を横断する円山川の河川敷には、湿原がいくつもできていました。コリヤナギはその湿原に自生していたもので、それを活用してかごづくりを始めたのです。
豊岡杞柳細工の歴史は、奈良時代までさかのぼります。東大寺の正倉院に「但馬杞柳箱」(たじまきりゅうばこ)という宝物があることからも、その時代に上質な柳行李が存在していたことがうかがえます。
豊岡杞柳細工が発展したのは江戸時代、豊岡藩に保護、奨励されたころからです。豊岡藩主の京極氏は藩の財源確保のために、柳の栽培から柳行李の製造、販売までを一大産業として確立。おかげで柳行李は豊岡藩の専売品となり、全国にその名をとどろかせました。
明治時代になると西洋化の波により、庶民の荷物を運ぶのは柳行李ではなくバッグがつかわれるようになりました。豊岡杞柳細工の職人も西洋風のバッグに姿をかえた「かばん」づくりへと移行していきます。
大正時代には鍵つきのバスケットが誕生しました。コロンとした愛らしいバスケットは、昭和時代に入って一大ブームを巻き起こします。当時皇太子だった徳仁天皇が、バスケットを幼稚園バックにつかっていたことから「ナルちゃんバック」と呼ばれ、買い求められたのです。
昭和時代、豊岡杞柳細工の工房で、柳など木のパルプでつくった「ファイバー素材のかばん」をつくるところが出てきました。ファイバーかばんは、1936年ベルリンオリンピック選手団の携行品としても有名。その後、豊岡はかばんの生産地としても歩んでいきます。
熟練の技が光る豊岡杞柳細工の特徴
豊岡杞柳細工は軽くて丈夫、通気性がよく、さらに防虫効果もあります。よけいな湿気や水分も吸収。フタの締め加減で収納量も調節できます。
豊岡杞柳細工の製造工程は、原料のコリヤナギを栽培することから始まります.コリヤナギは湿るとやわらかいのですが、乾燥すると驚くほどのかたさ。扱いづらく、思っている以上に手間がかかるのです。
昔は分業でコリヤナギの栽培だけをしている人がいましたが、今では職人みずから栽培。柳行李が編めるような素材になるまでには1年以上を費やします。
コリヤナギの栽培は、春に株を植えます。株はどんどん上へと伸びますが、途中で節ができないよう、脇芽をつむことが大切です。虫に食われないよう注意をしながらていねいに育てて、秋には刈り取り。刈ったばかりのコリヤナギは田んぼに立てて冬越しをさせます。
春になったらもう一度、コリヤナギを2~3本ずつ田んぼに挿して新芽を出させます。こうすることで皮と茎の間に樹液がまわってはがれやすくなるのです。皮をはいだコリヤナギは、川の中で洗ってぬめりを落とし、さらに夏まで乾燥をさせます。
柳行李の編み方は習得するのに10年はかかります。熟練の職人でも、大きなサイズは、編むのに1週間以上が必要。まずは行李板と呼ばれる台にコリヤナギを並べ、踏み板ではさんで体重をかけ押さえていきます。水につけてやわらかくしたコリヤナギは、しなりを利用して麻糸を通し、かたく締めながら編み上げていきます。木枠で固定して折り目をつけ、糸でとじて立体に。最後に縁と角を革で補強して仕上げます。
かごは最初に底の部分から編み始めます。底編みができたらつぎはフタ。入れ子になるようにサイズを調整します。編んだ底を木枠に取りつけて、外周に沿って側面をつくっていきます。必要な高さまで編んだら木枠をはずして縁を編んで仕上げます。
「伝統」と「挑戦」の豊岡杞柳細工の現代とお手入れ方法
現在、柳行李を制作する工房は一軒だけとなりました。栽培から加工まですべて自分たちでおこなう作業は重労働。それでも伝統をたやさないよう守り続けています。古くからある柳行李、かご、弁当箱などの技術の継承、そして現代の生活に必要とされる商品開発への挑戦。豊岡杞柳細工はこれからも、二本柱ですすんでいきます。
豊岡杞柳細工は、専門店で修理やお手入れができます。弁当箱は、水洗いが可能。日陰でよく乾燥させることが大切です。
豊岡杞柳細工の見学・体験ができる場所
但馬地域地場産業振興センター 地場産業歴史資料室
所在地 | 兵庫県豊岡市大磯町1番79号 |
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電話番号 | 0796-24-5551 |
定休日 | 年末年始(12/30~1/2) |
営業時間 | 9:00~17:00 |
HP | http://www.tajima.jibasan.jp |
備考 |
たくみ工芸
所在地 | 兵庫県豊岡市出石町魚屋99 |
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電話番号 | 0796-52-3280 |
定休日 | 不定休 |
営業時間 | 8:30~17:00 |
HP | https://takumi-yanagi.com/ |
備考 | 見学可 |