燕鎚起銅器とは
燕鎚起銅器(つばめついきどうき)は、新潟県燕市で生産されている金工品です。新潟県は、国内唯一の鎚起銅器産地であり、貴重な地域ブランドとなっています。1981年、国から伝統的工芸品に指定されました。
鎚起は、槌(つち)を用いて打ち起こす打物のこと。伝統的な技法を受け継いだ練達の職人が、銅を延ばしたり絞ったりしながら、丁寧に作っています。国内だけでなく、海外でも高い評価を受けている工芸品です。
和釘から始まった燕鎚起銅器の歴史
燕鎚起銅器の歴史は、江戸時代初期まで遡ります。越後平野の中心に位置する燕市では、信濃川の氾濫による被害で、農村が困窮する事態が続いていました。そんなとき、苦しい状況を少しでも改善しようと、和釘作りの副業を始めたことが始まりとされています。
最初は和釘のみでしたが、1650年頃からは銅細工も作られるようになり、燕市では銅器の生産が盛んになっていきました。弥彦山(やひこやま)の間瀬銅山(まぜどうざん)から、材料となる銅をたくさん確保できたことも、生産が加速した理由です。
銅器作りがさらに発展したのは、江戸時代中期。仙台生まれの藤七という渡り職人が燕市を訪れた際、鎚起銅器の製作方法を伝えました。
藤七の鎚起術は、燕市の複数の職人が継承し、本格的な鎚起銅器生産が始まることになります。職人の一人である玉川覚兵衛は、1816年頃、家業である銅器製作を鎚起銅器製作へ移行し、鍋や釜、やかんなどを精力的に作っていきました。この頃の生産技術が、現在まで続く燕鎚起銅器の基礎となったのです。
明治時代になると、廃刀令によって多くの工芸職人が失職してしまいますが、工芸技術はさらに発達していきます。一流の職人が生活用具を中心に生産するようになり、生活に寄り添ったクオリティの高い製品が、次々に生み出されました。その中で、鎚起銅器の製造技術も成熟していったのです。
1873年に開催されたウィーン万国博覧会では、高品質な燕鎚起銅器が出品され、海外からも多くの注目を集めました。玉川覚兵衛を初代とする玉川堂(ぎょくせんどう)では、美術工芸品を多く手掛けるようになり、燕鎚起銅器の製造技術も、より磨かれていきます。1894年には、彫金の技術を取り入れた製品が、皇室に献上されました。
戦時中は、銅が国に供出されたことで、原料の価格が高騰。鎚起銅器生産も低迷期に入ります。しかし、終戦後の1958年、代々受け継がれてきた伝統的な技術が新潟県無形文化財に指定されると、徐々に回復していきました。
高度成長期からバブル期にかけては、贈答品としての需要が増加し、生産もより活発になっていきます。バブル崩壊後は需要が減ってしまいますが、海外見本市への出展などが積極的に行われるようになり、販路の拡大に成功。その結果、海外人気がさらに高まり、需要を回復させることができたのです。
長く使うことで美しさを増す燕鎚起銅器
燕鎚起銅器の特徴は、光沢のある美しい見た目です。手作業で作られる燕鎚起銅器は、ひとつの製品が完成するまでに数十万回も打つことになります。作品によっては1ヶ月以上かかることもありますが、根気よく打ちを加えることで外側が滑らかになり、美しい鎚起銅器ができ上ります。
化学反応による着色が施された表面は、長年使い続けると、風合いが増すことも魅力のひとつ。丁寧に手入れをしながら使い込んだ製品は、銅ならではの味が出てきます。光沢も増し、より美しい見た目になることから、長く愛用する人が多いのです。
燕鎚起銅器の美しさは、すべて同じものではなく、工房や職人の特色が現れています。同じ用途であっても、作品によって違った艶と古色が出ており、さまざまな楽しみ方ができる工芸品です。
また、熱伝導率が高く、優れた耐久性を備えていることもポイント。素材となる銅の熱伝導率は、鉄の5倍、ステンレスの25倍にもなり、非常に熱が通りやすくなっています。銅には殺菌作用もあるため、長く使える製品として多くの人から重宝されているのです。
燕鎚起銅器の現在とお手入れのコツ
やかんや鍋、フライパンなど、人々の日常を支える製品が多い燕鎚起銅器。豊富なバリエーションが人気であり、現在も多種多様な作品が生産され続けています。
最近は、ワインクーラーやコーヒードリッパー、ビールカップなど、新しい形の製品も多く作られるようになりました。靴べらや名刺入れなど、意外なアイテムに鎚起銅器の技術が取り入れられていることもあります。銅の美しさや熱伝導率の高さをいかし、より人々の生活に寄り添うものが生み出されているのです。
燕鎚起銅器を日常の中で長く使うには、こまめな手入れを行うようにしましょう。銅は耐久性の高い金属ですが、水気や塩気などが付着したままだと、劣化を早めることになります。使った後は中性洗剤で汚れを落とし、丁寧に拭いておいてください。
保管の際のポイントは、湿気の悪影響を防ぐこと。きれいに洗ったら、新聞紙などの紙で全体を包み、湿度の低い場所で保管してください。じめじめした場所を選ぶと、湿気で錆が出てきます。水場の近くなどを避けて保管することで、美しさを長く保つことができるのです。
破損してしまった場合は、修理に出しましょう。燕鎚起銅器は頑丈ですが、長く使っていると取っ手などが壊れることもあります。販売店や工房に依頼すればプロがしっかりと修復してくれるため、お気に入りの製品をまた使えるようになります。
燕鎚起銅器の見学・体験ができる場所
燕市産業史料館
所在地 | 新潟県燕市大曲4330-1 |
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電話番号 | 0256-63-7666 |
定休日 | 月曜日(祝休日の場合は翌日)、祝日の翌日、年末年始 |
営業時間 | 9:00~16:30 |
HP | http://tsubame-shiryoukan.jp/ |
備考 | 純銅タンブラー鎚目入れ、洋白・錫(すず)ショットグラス鎚目入れ、錫ぐい呑み製作、錫の小皿づくり体験、チタン製スプーン酸化発色体験など |
玉川堂 燕本店
所在地 | 新潟県燕市中央通り2-2-21 |
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電話番号 | 0256-62-2015 |
定休日 | 日曜・祝日 |
営業時間 | 8:30~17:30 |
HP | https://www.gyokusendo.com/ |
備考 | 工場にて製作工程の見学が可能 |