つまみ細工とは
つまみ細工は、江戸時代から生産が続けられている東京都の伝統的工芸品です。小さな布を折りたたみ、組み合わせることにより、花や鳥などのさまざまな形を作ることができます。
昔から櫛(くし)や簪(かんざし)に使われ、美しく華やかな髪飾りとして人気を集めていたつまみ細工。現在も伝統的な技術がしっかりと継承されており、魅力的な製品が多く作られています。
つまみ細工の歴史と康照卿の簪
つまみ細工は、いまだに正確な起源が判明していません。その理由は、書物に記された情報が少ないことにあります。つまみ細工は、基本的に師弟の間でのみ技術が伝えられており、紙に書かれた情報はほとんど残っていません。さまざまな推測は出ていますが、本当の起源は、誰にもわからない状態です。
有名な説としては、京都で作られた花飾りがあります。1785年、京都の康照卿(やすてるきょう)が、妻の古着を再利用し、玉の簪を作りました。それが、つまみ細工の起源と考えられています。
康照卿は、竹で作ったピンセットのような道具を用いて、細工の技法を熱心に研究。つまみ細工の下げくす玉を完成させると、後桃園(ごももぞの)天皇に献上したとされています。
宮廷の女官たちは、康照卿の見事な細工に感銘を受け、着物の余った布で花飾りを作り始めます。つまみ細工作りは、女官たちの趣味となり、日々の楽しみのひとつとして定着していきました。
京都のつまみ細工がより広く知られるようになったのは、江戸時代中期。京都から徐々に広まった技法が東へ伝わり、江戸の職人もつまみ簪の生産に着手。華やかな魅力のあるつまみ細工は、女性から高い人気を獲得し、町娘たちの間で大流行します。
また、江戸の土産物としても有名になりました。手頃な値段で売り出されていたことに加え、素材が薄布で軽かったため、地方から江戸を訪れる旅人がよく購入していたのです。江戸を象徴する土産物として知名度を上げたつまみ細工は、次第に全国へ広まっていきました。
明治から大正にかけての書物には、つまみ細工の記録が出てくるようになります。それだけ多くの人がつまみ細工を使い、世間に浸透していたということです。明治からは「摘み師」「花簪師」と呼ばれる職人が登場し、つまみ細工の技法をより多くの人へ伝えたことで、一般の婦女子の間でもよく作られるようになりました。
1900年代からは、つまみ細工が手芸のひとつになり、女学校の科目にも加えられます。そのきっかけとなったのは、つまみ細工専門家の𠮷岡男成が1901年に始めたつまみ細工教室。𠮷岡男成は、女子の手芸教育の必要性を強く感じており、自宅の教室で多くの女性に技法を伝えていきます。さらに、1903年、文部省から女子手芸教育の訓令が出されたことで、つまみ細工は本格的に手芸の仲間入りを果たしたのです。
それ以降は、つまみ細工作りを技芸(ぎげい)として学ぶ女性が多くなり、技芸学校も増えていきました。1907年頃からは、技芸学校の講師たちが次々に教則本を出版し、つまみ細工の技法はさらに多くの人へと伝わっていきます。1982年には、江戸つまみ簪が東京都の伝統的工芸品に指定されました。
日本人の繊細さが作り出すつまみ細工の特徴
つまみ細工の特徴は、美術品のような美しい見た目です。日本人ならではの美意識が反映されており、海外でも高く評価されています。
その繊細な美しさは、細かい作業によって表現されるものです。正方形に切り出した生地をピンセットで丁寧に折りたたみ、さまざまな形を作っていきます。生地には絹織物が使われることが多く、独特の光沢や丈夫さも魅力のひとつです。
つまみ細工のつまみ方は、「丸つまみ」「剣つまみ」の2種類に分けることができます。丸つまみは、ふっくらとした丸みのある仕上がりになるため、花びらを作る際によく用いられる手法です。剣つまみは鋭い形を作ることができるため、葉の表現に最適。花びらの数を増やす際にも、剣つまみが使われています。
2つのつまみ方は、どちらもシンプルなものですが、布の種類や色の組み合わせは自由自在。そのため、多種多様な作品を楽しめることが、つまみ細工の特徴です。現在も表現の幅は広がり続けており、新しい製品が次々に登場しています。
つまみ細工の現在とお手入れのコツ
現在のつまみ細工は、時代の変化に合わせた洋風の製品も多く作られるようになっています。伝統的な技術を応用したブローチやヘアアクセサリー、ブーケなどは、若い世代からも人気。人々の生活に寄り添った製品は、新しいファンを増やしています。
また、つまみ細工を気軽に楽しむ人も増えました。2000年代には、全国でつまみ細工の教室が増加。より多くの人が伝統的な技法を学べるようになりました。レッスンを受けた人たちは、趣味として日常的につまみ細工を作っており、誰でも楽しめるハンドメイドクラフトとして注目されています。
つまみ細工の簪などを長く使っていくためには、しっかりと手入れを行うようにしましょう。つまみ細工は湿気に弱いので、吸湿性の高い桐の箪笥や防湿材、除湿器などを積極的に使う方法がおすすめです。普段から湿気が蓄積されないように注意し、カビの繁殖などを防ぎましょう。
長く使わない場合は、ただしまい込んでおくのではなく、年に1回は虫干しを行ってください。ただし、直射日光に当ててはいけません。強い日差しを避け、風通しの良い場所で干すようにすると、劣化を防ぎながら湿気をとばすことができます。
汚れた場合は、清潔な布で優しく拭き、きれいにしてから保管しましょう。落ちにくい汚れは、少し湿らせた布で拭き、早めに乾拭きをしてください。湿ったまま放置しないよう注意していれば、湿気によるダメージを抑えられます。
つまみ細工の見学・体験ができる場所
つまみ細工 夢工房穂積
所在地 | 千葉県市川市大野町1-408 |
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電話番号 | 047-337-0231 |
定休日 | 要問い合わせ |
営業時間 | 要問い合わせ |
HP | https://yume-tsumami.com/ |
備考 | つまみ細工の販売、つまみ細工教室あり |
つまみ細工 一凛堂
所在地 | 東京都台東区浅草橋1-4-6 遠藤ビル2階 |
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電話番号 | 03-6874-1852 |
定休日 | 日曜・月曜・祝祭日 |
営業時間 | 11:00~18:00 |
HP | https://tsumami-ichirindo.com/ |
備考 | つまみ細工の販売あり |