羽越しな布とは
山に囲まれた地域の貴重な収入源として代々受け継がれてきた羽越しな布(うえつしなふ)。現在は、山形県鶴岡市・新潟県村上市にある3つの村で織られています。
「羽越しな布」の名は、「羽越(うえつ)」という山形県(羽前)と新潟県(越後)を合わせた地域の名から付けられました。
しな布とは、シナノキ、オオバボダイジュ、ノジリボダイジュの樹皮から糸を紡いでつくる織物のこと。「原始布」や「古代布」とも呼ばれ、木の皮を使った織物のなかでは日本最古といわれています。
羽越しな布はもともと生活用品として織られていましたが、現在はバッグや帽子など趣味や装飾品としての織物もつくられています。
「三代古代布」にも数えられる羽越しな布の歴史
羽越しな布のように、草や木の繊維から織物をつくる技術は縄文時代からあったとされています。しかし、羽越しな布が織られはじめた正確な時期や発祥の詳細などは、まだ明らかになっていません。
残されている文献としては、平安時代の文書「延喜式(えんぎしき)」。その中に「信濃(しな)布」の記載があります。また、羽越しな布が沖縄の芭蕉布や静岡の葛布と並んで「三代古代織」に数えられていることからも、その当時には羽越しな布が織られていたと考えられます。
古代布は日本各地で生産されていましたが、需要の減少や化学繊維の普及により徐々に姿を消していきました。そんななかでも羽越しな布は生産が続けられ、山形県鶴岡市や新潟県村上市にて受け継がれています。そして昭和の後半には羽越しな布を民芸品に加工し、その良さが認められるように。
1985年頃には鶴岡市関川地区に「関川しな織りセンター」が設立され、地域一丸となって羽越しな布を守る活動が始まりました。2005年9月には経済産業省の伝統的工芸品にも指定され、ますます知名度が上がっています。
ざっくりした手触りの羽越しな布
羽越しな布の生産地は山に囲まれた豪雪地帯です。この厳しい環境では個々の協力なしでは生きていけません。そんななかで村の人々の生活を支えたものが「しな布」でした。
衣服として、魚網として、布団として、さまざまな用途で使われた羽越しな布。美しい織り目や素朴な色合いは、木の皮で織られる羽越しな布ならではの特徴です。
羽越しな布は、オオバボダイジュ、ノジリボダイジュの樹皮を原料につくられています。
ラテン語で「Tilia」といい、繊維・布を意味するシナノキ。この点から、欧米やロシア、中国でもしな布が利用されていたのではないかとの説もあります。シナノキを神聖視していた文明もあり、シナノキは国を問わず大切にされてきました。
そんなシナノキの樹皮からつくられた羽越しな布は、素朴で粗々しい風合いが特徴です。手触りも独特で、水にも強く丈夫な素材になっています。
また、羽越しな布は糸作りからおこなうので完成まで長い期間を要します。梅雨の時期にシナノキを伐採、夏から秋に靭皮から繊維を取り出し、冬に糸が完成。春までに織りあげるという工程で、すべてが完了するまでの期間はなんと約1年です。
これらの工程はすべて手作業。機械化が進み、スピーディに大量生産がおこなわれる現代の流れと比較すると、羽越しな布の生産は対極に位置するものです。
しかし時間と手間をかけて織られる羽越しな布は、丁寧につくられているぶん、贅沢さを感じられる織物でもあります。
自然の恵みを享受し、自然を使い倒すのではなく自然と共存していく「羽越しな布」。古くからの伝統だけでなく、古代人の思いまでも感じられる貴重な伝統工芸品です。
羽越しな布の現代での使われ方とお手入れ方法
羽越しな布は現在、バッグや帽子、ポーチなどとして生産・販売がおこなわれています。
羽越しな布は木の皮からできた糸による独特な風合いが魅力的な織物です。そのぶん少し粗々しい部分もあります。洋服と擦れることもありますので注意してください。
雨に濡れたときはこすったり放置したりせずに、布でやさしく叩くように拭きましょう。水に強い素材ですが、強くこすったりすると毛羽立ちが目立ったり、切れたりする場合があります。
シーズンオフには、ほこりをはらって保管することをおすすめします。ビニールなどには入れず、風通しのよい場所に置いておきましょう。
羽越しな布は使えば使うほど生地が柔らかくなり、色も濃くなっていきます。この経年変化を楽しむためにも、大切にお手入れしていくことが重要です。
羽越しな布の見学・体験ができる場所
関川しな織センター
所在地 | 山形県鶴岡市関川222 |
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電話番号 | 0235-47-2502 |
定休日 | 毎週火曜日、冬期(1月~3月)の日曜日、お盆、年末年始 |
営業時間 | 9:00~16:00 |
HP | https://www.tsuruokakanko.com/spot/476 |
備考 | 【コースター織り体験(要予約)】 |
さんぽく生業の里企業組合
所在地 | 新潟県村上市山熊田325番地 |
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電話番号 | 0254-76-2115 |
定休日 | 春分の日、8月12日〜20日、秋分の日、11月4日、12月28日〜1月7日 |
営業時間 | 8:30〜17:00 |
HP | http://www.iwafune.ne.jp/~sanpokusho/kaiin/nariwai/nariwainosato.html |
備考 |
【しな織り体験(要予約)】 【ブローチ・ストラップづくり(要予約)】 |