若狭塗とは
若狭塗(わかさぬり)は、福井県小浜(おばま)市で作られている伝統的な漆器です。茶器や箸箱、花器など、芸術性の高い製品が多く生産されています。
特に有名な製品は、独特の模様と美しさが魅力の塗箸(ぬりばし)。米国の元大統領であるバラク・オバマ氏に贈呈されたこともあり、国内外で高い人気のある製品です。
若狭塗の歴史と多種多様な技法の開発
若狭塗の歴史は、江戸時代初期まで遡ります。小浜藩に住んでいた組屋六郎左ェ衛門(くみや ろくろうざえもん)という豪商が、中国から入ってきた漆塗りの盆を入手します。存星(ぞんせい)と呼ばれる手法が用いられた盆には、日本の製品とは違った美しさがありました。
組屋六郎左ェ衛門は、漆塗盆を藩主である酒井忠勝(さかい ただかつ)に献上。その美しさに感銘を受けた酒井忠勝は、漆塗り職人の松浦三十郎(まつうらさんじゅうろう)に、似せた漆器を作るよう命じました。
松浦三十郎は、中国の技術を研究し、従来の製品とは違った新しい漆器を制作。何度も改良を重ねて完成させた製品には、若狭湾の海底の美しさを表現した独特の模様が施されていました。この漆器が、若狭塗の原型になったとされています。
小浜藩で誕生した新しい漆器は、その後も改良が続けられ、より洗練された「菊塵(きくじん)塗」と呼ばれる技法が登場。その後、松浦三十郎の弟子である西脇紋右衛門(にしわき もんえもん)は、「磯草(いそくさ)塗」という技法を考案します。海辺にさざ波が打ち寄せる様子を表現した磯草塗は、多くの注目を集めました。
より現在の製品に近づいてきたのは、1658年~1660年の万治(まんじ)年間。この頃の小浜の漆器には、卵殻や金箔が用いられるようになり、より美しい製品が次々に登場しました。
酒井忠勝は、そうした製品を「若狭塗」と名付け、足軽(あしがる)の内職として保護します。製造技術をほかの藩へ流出させないための対策なども、積極的に行われました。そうした変化の中で、菊水汐干(きくすいしおぼし)などの新しい技法も登場。上品で美しいデザインの製品が人気となり、若狭塗はどんどん発展していきます。
江戸時代中期から後期にかけては、若狭塗の最盛期とされている時期です。小浜藩が中心となって活発に生産が行われ、さまざまな技法が編み出されていきます。螺鈿(らでん)や蒔絵(まきえ)といった現在まで続く技法も、この頃に登場したものです。
当時、若狭塗を好んで使っていたのは、公家や武家といった裕福な人々。生活用品としての若狭塗はほとんど作られておらず、庶民には馴染みのない工芸品でした。これが、ほかの漆器と違い、お椀が少ない理由です。
明治時代になると、1878年のパリ万国博覧会に出品され、海外の人々からも高い評価を獲得。その後は海外への輸出が活発になり、世界中で使われる漆器になっていきます。
戦後は、製造技術がさらに進化。速乾性の高い新しい塗料が開発され、塗箸が作られるようになります。それ以降、若狭塗の箸は全国で人気になり、生産量が増加していきました。より多くの人から愛されるようになった若狭塗は、1978年、国から伝統的工芸品に指定されています。
芸術性と堅牢性を高めた若狭塗の特徴
若狭塗の特徴は、長い歴史の中で発達してきた風流な模様です。材料は、卵殻や貝殻、松葉など。それらを用いて模様を作ったあと、上から丁寧に漆を塗ります。色彩豊かな漆を十数回塗ったあとに行うのは、石や炭で漆を研ぐ作業。熟練の技術で丁寧に研いでいくと、漆の下の模様が浮かび上がってくるのです。
「研ぎ出し」と呼ばれるこの技法は、製品に独特の風格をもたせ、美術品としての魅力を高めています。研ぎ出しでは、まったく同じ模様ができることはないため、各製品で違った楽しみ方ができることも特徴です。
職人が手間暇かけて制作した高品質な若狭塗は、とても堅牢度(けんろうど)が高く、長持ちする漆器としても人気。研ぎ出しにより、水や熱への耐性が高まっているため、簡単に劣化することはありません。日常での頻繁な使用や長期間の使用にも耐えられる製品が多く、昔と違って日用品としても活躍しています。
また、職人の個性が出やすいことも魅力のひとつです。ほぼすべての工程を1人の職人が行うため、完成した製品には職人ごとの特色が出ており、模様を見て誰が作ったか判別できる人もいます。
若狭塗の現在とお手入れのコツ
現在の若狭塗は、伝統的な茶器や箸以外にも、新しい商品が多く登場。時代に合わせたモダンなデザインの塗箸などは、若い世代からも評価され、ファンを増やしています。昔よりもさらに多様化し、幅広い作風を楽しめることが、現代の若狭塗の特徴です。
ただし、美しい製品を長く使っていくためには、こまめな手入れが大切。若狭塗は丈夫な漆器ですが、より長持ちさせるためには、正しい方法できちんと洗うようにしましょう。
基本的なやり方は、中性洗剤を使い、柔らかいスポンジで優しく洗うこと。表面を傷つけないよう、硬いたわしや研磨剤入りの洗剤などは使わないでください。使用後すぐに洗うようにすると、硬いもので強く擦らなくても、しっかり汚れを落とすことができます。
きれいに洗ったあとは、風通しの良い場所で保管しましょう。若狭塗は日光を浴びすぎると変色が起こるため、直射日光が当たる場所は避けることをおすすめします。
若狭塗の見学・体験ができる場所
福井県産業会館
所在地 | 福井県福井市下六条町103 |
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電話番号 | 0776-41-3611 |
定休日 | 要問い合わせ |
営業時間 | 9:00~17:00 |
HP | http://www.sankan.jp/sankan/ |
備考 | 若狭塗の常設展示あり |
若狭工房
所在地 | 福井県小浜市川崎3-4 御食国若狭おばま食文化館2階 |
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電話番号 | 0770-53-1034 |
定休日 | 水曜日(祝日の場合は開館します)、年末年始(12月28~1月1日) |
営業時間 | 9:00~18:00(体験コーナーの受付は17:00まで)、冬季(12月~2月)9:00~17:00(体験コーナーの受付は16:00まで) |
HP | http://wakasa-koubou.com/ |
備考 | 製作体験(箸の研ぎ出し) 40分1,000円など |