八雲塗とは
八雲塗は、島根県松江市で生産される漆器です。良質な漆と伝統的な技法を用いて作られており、盆や椀、花器など、さまざまな製品があります。
経年によって魅力が増していく八雲塗は、長く愛用したくなる漆器として人気。使い込んだ製品には、他の漆器とは一味違った美しさがあり、多くの人を魅了しています。
八雲塗の歴史と坂田平一の漆器
八雲塗の始まりは、明治時代まで遡ります。江戸時代末期の1843年、松江の西茶(にしちゃ)町にある駕籠(かご)塗職人の家に、坂田平一(さかた へいいち)が生まれました。坂田平一は家業を継ぎ、駕籠塗の仕事に精を出しましたが、明治時代に入ると失職してしまいます。
代々続いてきた駕籠塗ができなくなった坂田平一は、職人として培ってきた技術を活用し、人力車の塗装やさまざまな直し物を手掛けるようになりました。そんなとき、古道具屋で中国製の盆と出会います。日本の製品とは違った魅力を持つ美しい盆は、存星塗(ぞんせいぬり)の製品でした。存星塗は、漆塗りの表面に色漆で模様を描いたうえで、線彫りを施す技法。その素晴らしさに感銘を受けた坂田平一は、自分でも盆を作り始めます。
存星塗を真似て試行錯誤を重ね、ついに完成した漆器は、見事なでき栄えでした。中国産の漆器として売り出されると、従来の漆器とは異なる美しさが多くの注目を集め、たちまち人気商品になります。1877~1886年頃に起きたこの出来事が、八雲塗の起源です。
坂田平一はその後も漆器作りを続け、少しずつ改良していきます。最初は存星塗に寄せて作っていましたが、独自の工夫を加えることで、より洗練された製品へと変わっていったのです。数々の優れた漆器は、当時の島根県知事である籠手田安定(てこだ やすさだ)からも高く評価されました。
その後は、知事や周りの友人たちから勧められ、漆器の売り方を変更。唐物(からもの)として売られていた漆器は、「平一」という印を入れ、「八雲塗」という名で売られるようになります。
明治時代後期から大正時代にかけては、新しく色鮮やかな漆が登場。八雲塗の美しさにも磨きがかかっていきます。優雅な花鳥の模様が描かれるようになったのは、この時期からです。
昭和に入ると、図柄を描く技法がさらに発展し、より多彩な製品が作られるようになります。腕利きの職人が創意工夫を凝らし、それまでになかった新しい漆器が次々に生み出されました。現在も生産される牡丹(ぼたん)が描かれた製品は、昭和から登場したものです。1982年には、島根県ふるさと伝統芸品に指定されています。
経年で深みを増す八雲塗の特徴
八雲塗の特徴は、手作業で表現される艶やかな質感と、優美な色合いです。時間をかけて丁寧に製作された漆器には、独特の美しさがあり、多くの人から愛されています。
美しさの秘密は、漆器の素地に蒔絵を施し、その上から透漆(すきうるし)を塗り込む伝統的な手法です。蒔絵には、色漆や青貝、金銀粉などを使用。美しい素材をいかし、多種多様な模様を描いていきます。
そのあとは、平らに研ぎ出しを行い、艶出しの漆を塗り重ねる作業。良質な天然の漆を重ねる工程は、八雲塗ならではの独創的な手法として有名です。漆を何層にも塗り重ねることで、深い趣のある漆器に仕上げることができます。
最後の作業は、表面の磨き。磨くことで艶が増すため、根気よく時間をかけて行われる工程です。磨いたあとにしばらく時間を置くと、徐々に漆が透け、最初に描いた蒔絵がしっかりと浮き出てきます。
八雲塗は、年月を経るごとに模様が鮮明になり、より深い味わいが出てくることも大きな特徴です。使えば使うほど文様がはっきりと浮き上がるため、昔は気づかなかった新しい魅力を発見することもあります。そのため、一度購入した製品を長く愛用し、職人が精魂込めて描いた模様をじっくりと楽しむ人も多いのです。
主な種類は、木製品、木粉加工品、樹脂製品の3つ。木製品は柔らかい質感が特徴であり、上品な趣のある製品です。木粉と樹脂によって作られる木粉加工品は、特に耐久性が高く、長持ちしやすいことが魅力。樹脂製品は大量生産に適しており、安価に購入できる八雲塗として人気を集めています。
八雲塗の現在とお手入れのコツ
現在の八雲塗は、伝統的な技術を生かし、新しい製品が作られるようになっています。おしゃれなモダンカップやグラス、アルバムなど、時代に合わせた洋風の製品が数多く登場。昔ながらの技法を大切にしながらも、スタイリッシュなデザインなどを積極的に研究し、進化を続けています。
美しい八雲塗の魅力を長く楽しむためには、漆器の適切な手入れを忘れないようにしましょう。汚れを落とす際は、熱い湯に長くつけないことが大切です。あまり湯につけておくと、劣化することがあります。落ちにくい汚れを水分でふやけさせるには、湯ではなく水を使ってください。温度が低くても、10分程度つけておけば、軽く擦るだけで落ちるようになります。
また、硬いものにも注意が必要です。タワシで強く擦ると傷をつける恐れがあるので、柔らかいスポンジで洗うようにしましょう。研磨剤も傷の原因になるので、普通の食器用洗剤を使ってください。ナイフやフォークなどの硬い食器は、ぶつかると表面にダメージを与えるので、別々に洗うことをおすすめします。
洗ったあとに意識することは、水分の拭き取り。濡れたまま放置しておくと、水道水に含まれるミネラルの影響で、白い跡が残ることもあります。常に美しい見た目を維持するには、丁寧に拭いてから保管しましょう。
八雲塗の見学・体験ができる場所
島根県物産観光館
所在地 | 松江市殿町191 松江城大手前 島根ふるさと館内 |
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電話番号 | 0852-22-5758 |
定休日 | 12月31日~1月1日 |
営業時間 | 9:00~18:00 |
HP | https://www.shimane-bussan.or.jp/ |
備考 | 八雲塗の展示、販売あり |
株式会社山本漆器店 八雲塗やま本
所在地 | 島根県松江市末次本町45 |
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電話番号 | 0852-23-2525 |
定休日 | 1月1日~1月3日 |
営業時間 | 9:00~19:00 |
HP | https://www.yakumonuri.jp/ |
備考 | 八雲塗の販売、工房見学あり |