山中漆器とは
山中漆器(やまなかしっき)とは、石川県加賀市の山中温泉地区で作られている漆器のことです。木地挽物(きじひきもの)技術に優れていて、お茶碗などの丸い漆器をメインに製造しています。茶道具の棗(なつめ)など木地の漆器の多くは山中温泉地区で作られており、全国の挽物の中で質・生産量が群を抜いているのが特徴です。
山中漆器は約400年前の安土桃山時代が発祥といわれ、現在は木製の漆器だけではなく、プラスチックにウレタンを塗装した近代漆器も作られています。漆器全般を英語で「japan」と表現するように、漆器は日本を代表する文化です。山中漆器はその中でも特に優れた技術と美しさを持った漆器といえるでしょう。
独自の技術が光る山中漆器の歴史
山中漆器は1573年~1593年頃の安土桃山時代の前半に木工品を製造していた職人達が、加賀市山中温泉の上流にある真砂という集落に移住してきたのが始まりです。移住した職人達が温泉客にろくろ挽きを売って生計を立て、技術が定着したといわれています。
【山中漆器発展の歴史】
江戸時代中期には、温泉客にお椀や土産用の道具を作って売り、温泉とともに発展していきます。江戸後期には木地に筋を入れる加飾という技術が作られ、19世紀には会津や京都・金沢から塗りや蒔絵の技術が伝わりました。この頃には、山中温泉地区の独自の技術が確立されます。
第二次世界大戦中には中断された時期がありましたが、山中漆器の技術は高く評価されて全国に知れわたります。親しみのある一般的な塗り物として支持されながら、繊細さ優雅さから芸術的価値も高く評価されました。
第二次世界大戦後には合成樹脂や化学塗料を使った、低価格ながらデザイン性と機能性の高い漆器が多く作られるようになり、より大きく発展していきます。
【近代漆器の歴史】
近代漆器とは、プラスチック素材にウレタンを塗装した漆器のことです。1955年に山中町と加賀市に工業団地が作られたあと、1970年以降に大きな発展を遂げていきます。木だけでは表現できない色彩や形が特徴で、インテリアなどにも活用されています。学校給食用の食器にも活用されるほど、耐久性が高いのも特徴です。
美しい木目と加飾が特徴の山中漆器
山中漆器の特徴は、縦木取りといわれる木取りの方法です。縦木取りとは山中漆器独自の手法で、縦方向に沿って木地を取る方法を指します。横方向に木地を取る横木取りに比べて歪みやなどが少なく、美しい木目が出るのが特徴です。
山中漆器を作る工程には大きく分けて4つあり、木地・下地・上塗り・蒔絵に分けられます。この中でも木地の工程にあたる加飾挽きは、木の表面に筋を入れる重要な工程。豊富なバリエーションがあり、山中漆器の大きな特徴のひとつといえるでしょう。全ての工程が手作業のため、仕上げまでに1年以上かかるといわれています。
【山中漆器の木地】
木地とは輪切りにした木から型に合わせ、大小さまざまな型を取る作業です。型に合わせてカットしたものを乾燥させたあとに回転させながら中をくり抜き、ろくろ挽きをしてから木地の表面に筋目などを入れる加飾挽きをします。
加飾挽きには、ろくろ筋や糸目筋など約50種類もの技法があり、山中漆器の伝統技法の中でも特別なものといえるでしょう。
【山中漆器の下地】
下地の工程では木地に漆を吸わせて木地の狂いを防ぐ木地固めや、木地の裂け目などを充填する刻苧(こくそ)など行います。その後に下地漆を木べらで塗って研ぐ、塗り研ぎを何度も行って強度や滑らかさをプラス。最後に木べらで錆地を全体に薄く塗り、乾燥させてから艶が出るように研ぎます。
【山中漆器の上塗り】
下地の後、塗師が黒や朱色の漆をハケで塗る作業が上塗りです。下塗り・中塗・上塗の工程があり、漆を塗っては研ぐ作業を繰り返し行います。漆が固まるのには湿気が必要で、天候によっても仕上がりが左右されます。
細かい配慮が必要な工程で、わずかなホコリやチリが付かないように気をつけなくてはなりません。日常的に使われる漆器は上塗りだけで仕上げられています。
【山中漆器の蒔絵】
蒔絵は漆で文様を書いてから金粉や銀粉を蒔き、加工や研磨をする工程です。山中漆器の蒔絵には代表的なもので、研ぎ出し蒔絵や高蒔絵などがあります。研ぎだし蒔絵は粉を蒔いて乾かした後に漆を塗り、木炭で金や銀が見えるまで研ぐものです。
高蒔絵は高く盛り上げる技法で、山中漆器の代表する技法のひとつでもあります。ほかにも文様の形に切った貝殻を装飾する螺鈿(らでん)や、金泊を付けた文様の沈金などの加飾技法もあります。
現代での使われ方とお手入れ方法
現在は家庭用だけではなく飲食店などでも使われており、その美しい見た目からインテリアとしても活用されています。漆器を扱う際は直火やレンジでの使用は避け、冷蔵庫などに入れる場合は乾燥してひび割れの原因になるので気をつけてください。
洗うときは柔らかいスポンジを使用して長時間水に浸けないようにし、固い陶器などと一緒に洗わないようにしましょう。また、自然に乾かすよりも拭き取った方が漆が長持ちします。
漆器を保管するときは乾燥が大敵なので食器棚に入れ、ほかの食器と重ねる場合は間に布などを挟むといいでしょう。普段から頻繁に使用すると乾燥しにくいため、せっかく購入したのであればしっかり使ってあげるのがおすすめです。
山中漆器の見学・体験ができる場所
石川県立山中漆器産業技術センター
所在地 | 石川県加賀市山中温泉塚谷町イ270 |
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電話番号 | 0761-78-1696 |
定休日 | 年末年始 |
営業時間 | 9:00~17:00 |
HP | http://yamanaka696.org/ |
備考 | 見学、研修生の募集など |
能美市九谷焼美術館(体験館)
所在地 | 石川県能美市泉台町南9番地 |
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電話番号 | 0761-58-6300 |
定休日 | 毎週月曜日・年末年始 |
営業時間 | 9:00~17:00 |
HP | http://www.kutaniyaki.or.jp/about_museum/taiken.html |
備考 | 美術館の見学、体験など |