八女提灯とは
八女提灯(やめちょうちん)は福岡県八女市で作られている伝統工芸品です。一条螺旋式(いちじょうらせんしき)と呼ばれる螺旋状の骨組みと、薄い絹の貼られた火袋に美しい花鳥風月の色彩画を特徴とし、一般的に盆提灯として用いられています。
八女地域の豊かな自然が育んだ提灯づくりは現在も受け継がれ、日本一の生産量を誇ると共に、広く海外への出荷もされています。
江戸時代から200年以上の歴史を持つ八女提灯の美しい造形と色彩画は、国内外を問わず高く評価されているのです。
そして職人たちの確かな技術が今なお八女提灯の価値を高め続けています。
八女提灯の歴史と末永兄弟による改良
八女提灯のルーツとなった場提灯
長い歴史を持つ八女提灯の始まりは、今から200年ほど前の江戸時代後期まで遡ります。現在の福岡県八女市本町に位置する福島町で荒巻文左衛門(あらまきぶんざえもん)が作った、山茶花や牡丹を描いた「場提灯」(墓地などに吊るす提灯)が八女提灯のルーツといわれています。
文左衛門の場提灯はごく簡素で素朴なものでしたが、当時同じようなものがなかったため人気を博しました。これ以降、この地域では提灯作りに携わる人が増えていったのです。
吉永兄弟の改良
八女提灯の現代の姿が定着したのは、場提灯が作られるようになってから30年ほど経ってからでした。
福島町の提灯職人のひとりであった吉永太平(よしながたへい)が、デザインにこだわり生み出したのが「一条螺旋式(いちじょうらせんしき)」です。一本に繋げた長い竹ひごを螺旋状に巻き、その上に地紙を貼る製造方法で、八女提灯だけでなくほかの提灯にも広く見られる構造となりました。
さらに太平は火袋に使われていた地紙をごく薄い和紙に変更し、提灯の明るさを改良しました。この和紙には八女地域で作られる「八女手漉き和紙」が用いられて、光の透けて見える様子から「涼み提灯」とも呼ばれ人気を博したのです。
火袋の水彩画も、素朴なものから色とりどりな花鳥風月までさまざまな柄が描かれるようになりました。
趣向を凝らした太平の提灯は、瞬く間に需要を拡大させましたが、手間と費用のかかる工程のため大量生産には向かないものでした。
そこで太平の弟である吉永伊平(よしながいへい)が、早描きの技術を応用し制作にかかる時間と費用の削減を試み、これを成功させます。この改良により大量生産が可能になり、出荷量は大幅に増えました。
明治に入ると八女市全域で同じ特徴の提灯が作られるようになり、「八女提灯」と呼ばれるようになりました。
八女提灯の現在
現代においても八女市は提灯の製造が盛んに行われており、福岡県の提灯生産量は日本トップクラスを誇っています。
時代とともに使われている材料は変化し、現在の八女提灯には、ワイヤーと極めて薄い絹が使用されています。材料はより適したものに変化しましたが、職人の技術と手間暇は変わっていません。
2001年には経済産業大臣指定の伝統的工芸品として指定され、現在は若い作り手の育成に力を入れています。
改良を続ける八女提灯の魅力と特徴
昔ながらの八女提灯の特徴は螺旋状の骨組みと、美しい水彩画です。特に絵付けの工程は特徴的で、下書きなどを一切せずに直接絵具で書き込んでいきます。また、生産量が多いことから早描きの描画法を現在も用いています。
職人によって迷いなくスピーディーに描かれていく絵付けの様子は、まさに職人技。描かれた水彩画は、明かりを灯すとまるで浮き上がってくるかのように見え、幻想的で優美な魅力を放ちます。
また、昔ながらの伝統的な製法をしっかりと受け継ぎながらも、新たな形式の提灯に挑戦し続けている八女提灯。材料などもより良いものを作るために、竹からワイヤー、和紙から絹へと変わっています。
常に改良し、発展させていこうという心意気は八女提灯が誕生して以来、職人たちが継承し続ける特徴であり魅力なのかもしれません。
現在も八女地域では盆提灯を中心に、住吉提灯、大内行灯、御天丸、博多長、門提灯などさまざまな種類の提灯が生産されています。
八女提灯の現代の使われ方とお手入れ方法
八重提灯は「灯りを取るもの」「涼を取る」「装飾」「奉納」など、昔からさまざまな用途で用いられてきました。現代においても、昔ながらの用途の需要は消えずに残っていますが、家庭で提灯を使うことは少なく、生産のほとんどは盆提灯となっています。
盆提灯というと年に一度しか使用しないものですので、知らないうちに虫食いがあった、などということも。正しいお手入れをしていれば、提灯を美しく保つことができます。
まず、年に一度は必ず箱から出して状態を確認しましょう。八重提灯の火袋は絹です。長い間押し入れなどにしまったままにしていると、虫食いの原因になってしまいます。
お盆に飾るついでに虫干しをして、しまう際は防虫剤を入れておくと良いでしょう。
最も重要なのが、提灯を購入した際についている紙(中入れ)をしっかり戻してからしまうということです。購入時には捨てないようにしましょう。
盆提灯以外の種類でも取り扱いはほとんど同じとなっています。
八女提灯の見学・体験ができる場所
八女伝統工芸館
所在地 | 福岡県八女市本町2-123-2 |
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電話番号 | 0943-22-3131 |
定休日 | 月曜日、年末年始(12月28日から1月4日まで) |
営業時間 | 9:00~17:00 |
HP | https://yamedentoukougeikan.jimdo.com/ |
備考 | 八女提灯を始めとする、八女の工芸品を観賞することができます。 |
伊藤権次郎商店
所在地 | 福岡県八女市本町220 |
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電話番号 | 0943-22-2646 |
定休日 | 日曜・祝日 |
営業時間 | 9:00~17:30 |
HP | http://chouchinya.jp/ |
備考 | 骨組みの組み立てから、地紙の貼り付けまで体験できます。 |